データサイエンティストに求められるスキルと経験とは
執筆:天野彩
作図:上石尊弥
リサーチ協力:長峰源樹 / 秋山紘樹
膨大なデータを解析し、ビジネスに活用できる知見を引き出すデータサイエンティストは、利用できるデータが複雑化・高度化している昨今、ニーズが高まっている職種のひとつです。最近では、データサイエンス系の学部や学科の新設が相次ぐなど、大学教育でも力を入れられています。
本記事では、データサイエンティストとして働くにあたって必要とされるスキルと経験を紐解きます。
データサイエンティストの来歴の分析結果は「データサイエンティストはどこから来たのか 過去の経歴の傾向を分析」をご覧ください。
ニーズは高いが明確な定義はなく、ミスマッチも
近年の技術革新により、私たちが収集・蓄積できるデータの種類と量は飛躍的に増大しています。
データサイエンティストは、ウェブサイトの閲覧履歴、GPSから得られる位置情報など大量に蓄積されたデータ(ビッグデータ)を分析し、ビジネスに活用できる知見を引き出す職種とされています。
厚生労働省の職業情報提供サイトjob tag[1]によると、国内でデータサイエンティストとして働いている人は約8万人とみられます。
全国のハローワークで仕事を探す求職者1人あたりの求人数を表す有効求人倍率は2022年度は2.77と、全国平均の1.31[2]と比べて高く、人手不足の状況にあることがうかがえます。
ただ、新しい職業である「データサイエンティスト」には明確な定義がありません。
企業側が期待する仕事の領域が広いことから、人材のスキルセットと期待される役割のミスマッチにより、企業側は想定した成果が得られず、人材は経験や能力を職場で十分に活かすことができないといった不幸な事態も起きています。
こうした問題意識から、産学の有識者らが集い、2013年に一般社団法人データサイエンティスト協会が設立されました[3]。
同協会は、データサイエンティストに必要とされる技能(スキル)要件の定義と標準化を目指し、実務能力を測る検定試験などを実施しています。
三位一体のスキルセットが必要
データサイエンティスト協会が監修し、独立行政法人情報処理推進機構がまとめた「データサイエンティストのためのスキルチェックリスト/タスクリスト概説」[4]によると、データサイエンティストは「ビジネス力」「データサイエンス力」「データエンジニアリング力」の3つのスキルセットを持っていることが求められます。
それぞれのスキルについて説明します。
ビジネス力:ビジネスにおける価値を提供するために、解決すべき課題を整理したり、社内外の関係者に説明したりする際に必要な能力。コミュニケーション能力を含む。
データサイエンス力:情報処理、人工知能、統計学など情報科学系の知識に基づき、様々なデータを俯瞰的に扱う能力。データの力を最大限に活かす方法を探すのに役立つ。
データエンジニアリング力:実際にシステムを実装、運用するための技術。データを適切に処理するプログラミングスキルなど。
ただし、必ずしも一人で全てのスキルを完全に備えている必要はありません。課題解決のフェーズによって、必要になるスキルは変わります。
また、実務ではチームメンバーと協力して仕事を進めることになりますから、チームリーダーや採用担当者は個々人の得意なことと苦手なことを把握したうえで、チーム全体としてうまく仕事を回していくための仕組みづくりや人材の配置を考える必要があります。
データサイエンティストに求められるスキルは、技術の進歩に伴い刻一刻と変化しています。最新の技術や理論の動向、社会情勢の変化などを絶え間なくチェックし、日々学んでいくことも大事な素養です。
参考文献
[1] 厚生労働省, 職業情報提供サイトjob tag データサイエンティスト – 労働条件の特徴
[2] 時事通信, 2023年4月28日, 22年度の求人、1.31倍=2年連続改善、失業率は2.6%
[3] 一般社団法人データサイエンティスト協会, 協会概要
[4] 独立行政法人情報処理推進機構, 2022年4月1日, データサイエンティストのためのスキルチェックリスト/タスクリスト概説 第二版