プロダクトマネージャーに求められるスキルと経験とは
執筆:天野彩
作図:上石尊弥
リサーチ協力:長峰源樹 / 秋山紘樹
急速にIT化が進む昨今、私たちは日常生活や職場でSaaS(Software as a Service、サービスとしてのソフトウェア)など様々なIT製品を利用しています。主にそうしたIT分野の製品の開発や販売の責任を負うのが、プロダクトマネージャー(PdM)という職種です。
なおプロダクトマネージャーはPMと表記されることもありますが、本記事ではプロジェクトマネージャー(PjM)と区別するためにPdMと表記します。
本記事では、PdMとして働くにあたって必要とされるスキルと経験を紐解きます。
PdMの来歴の分析結果は「プロダクトマネージャーはどこから来たのか 過去の経歴の傾向を分析」をご覧ください。
担当するプロダクトに関わる業務全般を統括
PdMは世界でも有数のIT関連企業の集積地であるアメリカのシリコンバレーで花形の職種として発展し、日本でもスタートアップ企業を中心に徐々に広がりを見せています。
「源流を探る」シリーズの過去回で取り上げたデータサイエンティストと同じく明確な定義がなく、後述のようにその役割は企業ごと、製品ごとに異なります。
一般的には、サービスを含むプロダクト(製品)についての全ての領域に関わるマネジメント(管理)を担い、責任を負う役職であるといえます。その責任範囲の広さと幅広い役割を担うことから、「ミニCEO」と呼ばれることもあります[1]。
PdMと混同されやすい職種に、プロジェクトマネージャー(PjM)があります。統括するのがプロダクトかプロジェクトかというのが主な違いですが、いずれも明確な定義はなく、組織によってどのような場合にどちらの名称が使われるのかは定まっていません。
いずれもPMと省略されることがありますが、PMが指す職種がPdMなのかPjMなのかは組織によって異なるため、注意が必要です。
必要なスキルセットを示す三角形
プロダクトマネージャーに求められる役割や必要なスキルセットをわかりやすく説明しているとして、複数のメディアで日本語に翻訳され引用されている図が下記の「プロダクトマネジメント・トライアングル」です[2]。
プロダクトマネジメント・トライアングルはアメリカのITサービス会社CEOのダニエル・シュミット氏が考案し、2014年に提唱したフレームワークです。
図1に示すように、製品(プロダクト)を中心に、開発者、利用者、ビジネスの3つのステークホルダーを頂点とする三角形です。
シュミット氏のブログ[3]によると、開発者は主にエンジニアで、コードを書いてIT製品を利用できる状態にする人たちです。利用者(またはやや大雑把にいうと「顧客」)は、製品を使う人と使うかもしれない人を指します。ビジネスは、製品への投資と恩恵(例えば利益)を期待する存在です。
各ステークホルダーの間にあるのは、ステークホルダー同士を繋げる役割や仕事内容の例です。先述のブログ[3]では、「これは網羅的なリストというわけではなく、それぞれの領域の雰囲気を手っ取り早く伝えることを意図している」と記載されています。
シュミット氏は、PdMはこの三角形の「全ての領域を健全に機能させることに責任を持っている」としています。
幅広い知見が必要だが役割分担も選択肢
ただ、実際に行う仕事の業務内容や組織編成は会社ごと、さらには製品ごとに異なります。
必ずしも三角形に書かれている全ての領域について完全にカバーできるだけのスキルと経験を有している必要はありません。
一方で、どの分野に強みがあるとしても、それぞれの分野の共通言語となる知見をある程度は把握しておくことが必要です。
チームメンバーの仕事内容を理解、尊重し、「自分たちの苦労をよくわかってくれている」と思ってもらえなければ、十分にリーダーシップを発揮できません。
特にプログラミングなどの技術的なバックグラウンドは、製品に実装したい機能の実現可能性を判断するための背景知識として役立ちます。急速に発展しているIT業界のトレンドを常にアップデートし続けることも、企画や販売戦略を考える上では重要でしょう。
PdMやPjMはまだ日本では歴史が浅く新しい職種です。今後も必要に応じて役割は細分化し、新しい職種が生まれていくでしょう。
参考文献
[1] 翔泳社, 2021年3月10日, 最も魅力的な職業「プロダクトマネージャー」の役割とは? 重要性が増すプロダクト作りに必要な仕事を解説
[2] Product Logic, Dan Schmidt, 2014年6月22日, The Product Management Triangle
[3] ninjinkun’s diary, ninjinkun, 2016年8月22日, 【翻訳】プロダクトマネジメントトライアングル