大きく変わる「転職ジャーニー」 より良い採用への勝ち筋は

2023.08.01
考え方

執筆:雨宮百子
作図:上石尊弥
リサーチ協力:株式会社LayerX / 秋山紘樹

最近スタートアップやベンチャーが競合になってきていませんか?オファーの段階で競合他社に競り負け、欲しい人材を逃した経験はありませんか?

採用環境は急速に変化しています。候補者がたどる道筋「転職ジャーニー」(候補者のカスタマージャーニー)の新しいありかたを考えるうえで、「潜在層」との接触を意識して採用活動を進めないと勝ち残れない理由を説明します。

図1 新旧転職ジャーニー

人材獲得競争の主戦場は「転職潜在層」

「転職ジャーニー」とは、転職を希望する企業への応募、面接、入社など候補者が全ての転職ステップを経験する道のりを指します。 

これまで、企業は転職を決意した候補者がたどる選考プロセスのみを転職ジャーニーとして想定していました。このため多くは候補者の応募後のプロセスだけを想定していました。

近年になって、スタートアップ企業などが優秀な人材を確保するために、すでに転職をしようと決意し応募の準備を整えた人のみでなく、まだ転職を考えていない「潜在層」にも接点を設けようとする動きが出てきました。

例えば、2019年にWantedly社がまとめた「リクルートメント・マーケティング入門:あたらしい採用の常識」[1]に応募前の候補者へのアプローチの重要性についての記載があります。

転職潜在層も含む候補者の日常生活や業務の中で認知してもらうことで志望度を上げてもらえるように準備しておくことがますます重要になってきています。

候補者がたどる新しい「転職ジャーニー」

まず、候補者が企業を認知するところから転職ジャーニーは始まります(①認知している)。まだ転職を考える状態になっていない人に対してもアプローチし、企業活動への認知を深めさせることがポイントです。
社会課題や時事ニュースに関係したコンテンツを配信すると同時に、メルマガ送付などにつなげるために閲覧している候補者の情報を入手しておくのもいいでしょう。

ここで接点をもった候補者に対してつながりを作り、メールマガジンを配信し、定期的に企業の情報を届けるなどして興味を引きます(②興味を持つ)。さらに関心をもった候補者が自ら関連する情報を探し、イベントなどに参加してもらいやすい状態にします(③接点を持つ)。

企業が情報を継続して発信することで、候補者は企業に関する理解を深めやすくなるでしょう。例えば「企業が果たすべき使命(ミッション)」「将来の展望(ビジョン)」「現在取り組んでいる課題」「ともに働くメンバーの思い」などの情報を事前に簡単に仕入れることができるようになるのです。

選考に応募してくれた候補者は、面接やオファー面談などの場で相互に会社との相性を見極め、入社してもらうかどうか判断すると同時に、候補者にも判断してもらいます(④見極め判断する)。

ツイートした65分後にCTOからメッセージ

ここで、採用現場の変化を感じていただくために、IT企業の株式会社LayerX(以下、LayerX)の事例[2]を紹介します。エンジニアの松村優也さんは、ある日LayerX 代表取締役CEO(肩書きはいずれも当時)の福島良典さんのツイート経由で福島さんが書いたnoteの記事を読みました。記事に強く共感した松村さんは、「素敵」とコメントをつけて福島さんのツイートをリツイートします。

するとわずか65分後、LayerXの代表取締役CTO、松本勇気さんから「雑談しませんか」とDMが届きます。noteの感想も伝えたかった松村さんは、そんな経緯で繋がった松本さんとの面談の場でカジュアル面談を自ら申し込み、結果として内定に至ったのです。
このように、昔では考えられないようなスピードや方法で、採用が決まるようになってきています。

図2 LayerXでの新しい採用の形

地道に採用の「好循環」を回そう

人材の獲得競争が熾烈なスタートアップには、TwitterやLinkedInなどのメディアで自社をフォローしてくれているフォロワーのほか、自社の記事をシェアしてくれた人、発信に対して「いいね」をしてくれた人までチェックしている採用担当者もいます。

このように、応募してくれる可能性がある潜在層の候補者に対して企業がアプローチの方法を複数もっていることで、採用の幅を広げることができます。「認知させる」「興味を引く」「接点を作る」を継続的に循環させることが重要なのです。 

気を付けたいのは、こうした地道な努力に対しての成果を短時間で求めようとすることです。潜在層までアプローチするとなると、これまで以上に採用に時間がかかります。
イベントを実施したり、企業の情報を発信したりしたとしても、応募者数の増加や良い人材の獲得といった結果がすぐに出るとは限らないでしょう。実際には、各段階の間には大きな壁があり、段階移行の間に多くの人が離脱していきます。

一般的に中途採用に関しては、書類選考をしてから内定が出るまで3ヶ月〜半年程度の時間がかかります。転職の意思が明確にはない潜在層にも採用の手を広げるには、彼らが転職を決意するまでの時間も考慮に入れると、1年以上の時間をかけて取り組む必要があります。

時間だけでなく、費用もかかります。ミスマッチの少ない採用活動を継続的にするために、ある程度の予算を確保しましょう。例えば、メールマガジンに登録した候補者たちが複数回採用サイトやホームページを閲覧しているといったデータを、企業側はツールを利用して分析・可視化できます。こうしたツールの利用料は、決して安くはありません。

短期的あるいは中長期的に自社の採用候補となる人材の情報を蓄えるデータベースである「タレントプール」を構築することで、人材に関する情報を自社内に蓄えていくことのメリットを忘れないようにしましょう。そうすることで、最終的には適切なタイミングで候補者にアプローチできたり、採用コストを削減できるようになったりするのです。

「転職ジャーニー」の旅路が長くなってきている昨今では、本気で採用を行うためには時間もお金もかかります。厳しい言い方ですが、コスパのよい「処方箋」はないというのをまずは認識することが最初の一歩となるでしょう。


参考文献
[1] Wantedly, Inc. アカウント: シンクマ, 2019年3月4日, あたらしい採用の常識 リクルートメント・マーケティング入門
[2] noteアカウント: yu-ya4, 2022年9月14日, 機械学習でハタラクをバクラクにするために LayerX に入社しました #LayerX

メールマガジン