求人票から見る海外と日本における採用の違い
なぜ欧州では「英語が話せる」は前提条件なのか

2024.07.16
考え方

執筆:雨宮百子
作図:上石尊弥

グローバル化が進む現代社会において、多国籍企業は世界各国で才能を求めています。特に各国が同じ大陸内に位置し、EUで国家の垣根をこえてつながる欧州と、日本では求人票の内容が大きく異なります。今回は、欧州議会があるヨーロッパの中心地・ベルギーを例に出しながら、日本の採用プロセスの違いに焦点を当て、英語力がなぜ重要視されるのかを解説します。

欧州では「2カ国語以上」が流暢に話せるのが最低条件?

例えば、欧州議会などがあるEUの中心・ベルギーをみてみましょう。ベルギーは多言語国家であり、フランス語、オランダ語(フラマン語)、ドイツ語が公用語です。首都のブリュッセルは、国際機関が多く集結することから、公用語は英語になっています。
こうした背景から、国際企業を中心に、求人票ではしばしば英語とこれらの言語の能力が求められます。また、ベルギーの求人票は具体的な職務経験やスキルセット、求める人物像まで明記されることが一般的です。

欧州でもアクティブユーザーが多く、仕事探しに活用されるLinkedIn(リンクトイン)で求人票をみてみましょう。

図1 欧州の求人票では、求める仕事内容や要求される言語基準が明確にされることが多い

「少なくとも専門職学士号を取得している」と記載されていますが、実際は修士号以上の応募者が多いです。また、求人票に修士号以上と書いてある場合も多くあります。言語に関しては重要で 「英語とオランダ語(望ましい)またはフランス語の優れた知識をお持ちの方」との記載があります。

欧州でインターンシップはどのように使われているか

筆者がベルギーで出会ったある移民は、英語やフランス語が流暢でしたが、働いている地域がオランダ語なので、オランダ語の勉強を自費でしています。日常的な仕事は英語ですが、会議になるとオランダ語が飛び交うからだそうです。ベルギー国籍を持っていない人は、このような努力を「当たり前」にやっています。こうした人が実際には、会社から「ビザ」をスポンサーされます。ビザをサポートされない場合は、自分で何かしらの方法でビザを取得していない限り、そもそも仕事に就くことすら難しいからです。

また、修士を2つや3つ持っている人は珍しくありません。20代の博士号取得者も多くいます。ベルギー国民はこうした人たちと戦わないといけないのです。

しかしながら、修士号をもっていたとしても、日本のような新卒採用文化はないので「すぐに採用」されることはほとんどありません。多くがまずはインターンシップなどで「職務経験」をつけてから挑みます。また、学んだ内容や修士論文の内容が職務内容と関連があることが望ましいとされています。新卒採用文化のある日本では大学で学んだことはそこまで重視されません。しかし、欧州では目指したいキャリアを明確に描きながら、大学や大学院で学ぶ分野を選定し、在学中・もしくは卒業後にインターンシップに参加し、職務経験を磨いていく点が大きな違いであると言えるでしょう。

日本ではインターンシップといえば基本的には国内が多いですが、欧州では海外を前提に経験を積みます。例えば、あるベルギー人は「英語をもっとビジネスレベルで流暢にするため」に、3ヶ月米国のサンフランシスコで開催されるインターンに参加していました。
インターンシップは無給のものも多いですが、交通費とランチ代、一部費用を支給するものもあります。インターンシップも1つではなく、複数のものに参加し、経験値をつけていくことも珍しくありません。

「CEFR」を知っていますか?

日本では、社内のコミュニケーションが日本語で行われるため、求人票に英語力の要求が見られるのは主に国際的な業務を担うポジションや外資系企業に限られます。
しかし、世界では当然ながら英語は国際ビジネスの共通語として広く受け入れられており、特に欧州では多国籍チームが日常的に英語でコミュニケーションを取っています。

欧州と日本の採用要件の違いを理解することは、国際的な環境で「採用」を捉え、企業の戦略に繋げていくために必要でしょう。特に「英語が話せる」というスキルは、今後もグローバルな採用においての大前提であり続けるはずです。

また、それは日本では一般的なTOEICの試験では、計測できないことも注視すべきです。欧州では圧倒的に会話ができるかできないか、が重視されます。例えば、外国語の熟達度を測る際には「CEFR(セファール)」という指標が用いられます。

CEFRは「Common European Framework of Reference」の略で、日本語では「ヨーロッパ言語共通参照枠」と訳されます。この枠組みは、多言語が行き交う欧州で、どの言語でどれくらいの語学力があるのか、特にコミュニケーション能力を共通の基準で測るために欧州評議会(Council of Europe)が20年以上の研究を経て開発したものです。

CEFRは外国語の熟達度をA1、A2、B1、B2、C1、C2の6つのレベルに分けて評価します。それぞれのレベルには詳細な定義があり、A1は簡単なやりとりができる初心者レベル、C2はほぼネイティブ並みにその言語を活用できるレベルです。

例えば、「私は英語はC1、フランス語はB1、そしてスペイン語はA2です」と言うと、それぞれの言語がどれくらい使えるのかを相手に伝えることができます。国境を越えた就職や日常での使用が一般的な欧州では、このCEFRが重要な指標となっています。

外国人を採用するとき「日本ではTOEICが一般的だから、相手にも強要する」ではなく、こうした背景をふまえながら、CEFRやIELTSなども積極的に指標として導入するのもよいかもしれません。
また、日本人の採用に対しても、今後グローバルな展開を考えるのであれば、こうした指標を意識しながら育成していく必要もあるでしょう。

採用マネジャーは、このような文化的な背景の違いを理解しながら、多様な才能を引き寄せるための戦略を練ることが求められるでしょう。

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