競争率高まる採用市場 スカウト返信獲得のための確認フロー

2024.03.15
考え方

執筆:天野彩
作図:上石尊弥
リサーチ協力:田部ひなの / 野溝瞳 / 鈴木もも

スカウトメディアでのメッセージなどを通して企業から直接候補者にアプローチするダイレクト採用(ダイレクトリクルーティング)が、近年拡大しています。
しかしその反面で、優秀な候補者を獲得したい企業にとっては競争率が増しています。

スカウトを送っても、なかなか返ってこないというお悩みを抱えている採用担当者の方も多いのではないでしょうか。

本記事では、独自のアンケート結果を交えてダイレクト採用拡大と競争の激化の実態を解説し、最後にスカウトへの返信率を上げるために見直したいポイントの確認フローをご紹介します。
ダイレクト採用のボトルネックの再確認のためにお役立ていただければ幸いです。

採用活動が活発になり競争が激化

複雑で予測が難しいVUCAと呼ばれる時代を迎え、企業が生き残っていくための事業転換や組織改革が重要な経営課題になり、これまで自社にいなかった人材を積極的に採用しようとする企業が増えています。
このため企業の採用活動が活発化して競争率が高まり、採用活動の難度が全体的に上がっています。

求人情報・転職サイトdodaの転職求人倍率レポート[1]によると、2019年から2023年にかけて転職希望者数はおおむね横ばいなのに対し、求人数は新型コロナウイルスが猛威をふるった2020年に激減した後に、2021年ごろから徐々に増えています。
それに伴い、dodaの会員登録者(転職希望者)1名に対して中途採用の求人が何件あるかを算出した「doda転職求人倍率」は上がってきています
dodaが公開している転職求人倍率の2023年度(4月〜1月)の平均値は2.49。2022年度の2.12、2021年度の1.62と比べて大きくなっています。

図1 doda転職求人倍率などの推移(出所 doda「転職マーケットの”今”を知る! 転職求人倍率レポート」)

「返信が返ってこない」お悩み多数

そのような中で、人材紹介(エージェント)、求人広告の掲載といった従来の人材サービスに加えて、スカウトメディアで候補者にスカウトメッセージを送るなどしてカジュアル面談や選考に繋げるダイレクト採用に取り組む企業が近年増えてきています。
ダイレクト採用では、採用ニーズの高い人材に直接アプローチできるのが利点です。

ただダイレクト採用でも、特に採用ニーズの高い人気の人材には、毎日何十通というスカウトメッセージが届いており「争奪戦」になっています。

株式会社ダイレクトソーシングが2024年1月に実施したダイレクト採用をテーマにしたセミナーでは、出席した採用担当者71人がアンケート[2]に回答。
ダイレクト採用についてのお悩み(複数回答可)を尋ねたところ、ダイレクト採用を取り入れていると回答した採用担当者48人のうち最多の21人が「スカウトの返信が返ってこない」と回答しました。

図2 ダイレクト採用についてのお悩み(回答者数:48人)

ダイレクト採用の市場規模の広がり

ではなぜ、返信獲得に悩む採用担当者の方が多いのでしょうか。

背景にはダイレクト採用の広がりがあります。
株式会社矢野経済研究所の調査[3]によると、2022年度のダイレクト採用関連事業の市場規模は、事業者売上高ベースで前年度比38.9%増の865億円でした。さらに2023年度は、前年度比23.5%増の1,068億円にのぼると予測しています。

図3 ダイレクト採用関連事業の市場規模

中途採用だけでなく新卒採用でも、ダイレクト採用は広がっています。
株式会社リクルートの就職みらい研究所[4]によると、2025年卒の新卒採用で「スカウト・オファー型の採用」を実施した企業は34.0%(前年比3.5%増)。特に5千人以上の会社では51.2%(同6.2%増)と過半数が実施していると回答しました。

返信率を上げるための工夫・ボトルネックの特定

それではメッセージの開封率と返信率を上げるために、どのような工夫ができるでしょうか。
本記事ではダイレクト採用のボトルネックとなっている箇所の特定の参考になる「スカウト返信獲得のための確認フロー」をご紹介します。「ナーチャリングスカウト」に関する記事で紹介した図の改良版です。

図4 スカウト返信獲得のための確認フロー

返信獲得のための施策を考える前に、ターゲット設定、チャネル・メディア選定などが合っているか、再確認することが必要です。

まず「ターゲット設定」で、採用市場に存在しているターゲットを設定できているかどうか確認します。採用要件を満たす人材が採用市場にほとんど存在しない場合は、要件定義から見直す必要があります。

「チャネル・メディア選定」では、設定したターゲットがいるところにスカウトを送れているかを確認します。採用チャネルやメディアによって、候補者の年収レンジや業種の層に違いがあります。それぞれのチャネル・メディアの特徴や手厚い層を確認した上で活用できているか、再確認しましょう。

これらの条件がターゲット層と合致していて、スカウトメッセージが候補者の目に留まり、件名で興味を引くことができたときに、候補者はスカウトメールを開封すると考えていいでしょう。

どんな件名なら興味を引くことができるのか、近年特に採用難度が上がっているITエンジニアを例に考えてみます。
株式会社ダイレクトソーシングがまとめた「ITエンジニアの意識調査レポート」[5]によると、「リモート勤務」「現年収保証」「フレックス勤務」といった言葉がスカウトに記載されていると興味を引かれると多数のITエンジニアが回答しました。
このように自社の特徴の中でも候補者の関心を引きやすいポイントは何か、整理してみましょう。その上で訴求できる単語を件名に盛り込むことは、開封率を上げるためにできる工夫のひとつです。

さらに、候補者が反応する内容になっており、転職を前向きに考えているタイミングであれば返信がくるでしょう。
同レポートでは、ITエンジニアにスカウトが届いた際に重視するポイントトップ3は「スカウトの理由」「ポジションに求められるスキル」「求人内容と自身の経験のマッチ度」でした。スカウトをいかに個別の対象者に向けた文面で作れるかが返信獲得の鍵といえます。

ダイレクト採用が主流になりつつある昨今では、採用活動を戦略的に進めていくことが必要です。
こうしてターゲット群の候補者の目に留まり、返信してもらえるようにダイレクト採用を設計できているか、順を追って再度見直すためのヒントにしていただければ幸いです。

参考文献
[1] パーソルキャリア株式会社, doda, 転職マーケットの”今”を知る! 2024年2月15日発表, 転職求人倍率レポート(2024年1月)
[2] 株式会社ダイレクトソーシング, 2024年1月18日, 第6回 採用人事交流会「人事のホンネ 第四段」〜ダイレクトリクルーティング編〜
[3] 株式会社矢野経済研究所, 2023年9月4日, ダイレクトリクルーティングサービス市場に関する調査(2023年)
[4] 株式会社リクルート 就職みらい研究所, 『就職白書2024』2024年卒の就職・採用活動の振り返りと、2025年卒の採用見通しを調査, P16
[5] 株式会社ダイレクトソーシング, ITエンジニアの意識調査レポート 2024年1月版 スカウト・カジュアル面談編, P10-11

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