欧米と日本のキャリア意識の違い 国際的な人材獲得競争に臨むための背景知識

2023.09.15
リサーチ

 執筆:雨宮百子
作図:上石尊弥

今後加速する少子高齢化社会において、人手不足は深刻な課題となっています。世界的な人材獲得競争で生き残るためには、ジェンダーや国籍などのダイバーシティ(多様性)を社内で確保することが企業にとって不可欠です。

外国人採用を検討したいと考えつつも、日本以外の国の雇用制度やキャリアへの考え方を把握できていない採用担当者もいるかもしれません。

雇用制度やキャリアへの考え方は国や文化によって異なります。特に、欧米と日本ではその違いは顕著です。外国人の採用を成功させるには、日本以外の国の人の働き方の違いを押さえておく必要があります。採用の習慣やその背景の違いによってミスマッチが生じるのを防ぐためです。

この記事では、グローバル社会で企業が生き残るために採用担当者が知っておきたい、欧米と日本の仕事への考え方の違いや制度を解説します。

表1 各国のキャリア文化と労働時間の比較

ヨーロッパ:多様性とワークライフバランスの追求

ヨーロッパには、文化や歴史、経済的背景が多様な国々がありますが、一般的に労働文化は労働者の権利とワークライフバランスの保護に焦点を当てています。

多くのヨーロッパ諸国、特に北欧諸国では、ワークライフバランスを重視する傾向が目立ちます。

2023年、フォーブスが世界128都市について、どのくらいワークライフバランスを重視するのかを調査しました[1]。幸福度や労働時間、失業率などの10項目について各国にスコアを付与し、総合的なワークライフバランスの順位をつけた結果、トップは北欧が独占しました。

1位はデンマークのコペンハーゲンです。デンマークでは、柔軟な労働時間、最低5週間の年次休暇、低い失業率(2.4%)などで高いスコアを記録しました。デンマーク語で「居心地がいい時間や空間」を意味する「ヒュッゲ(hygge)」の価値観を大切にしていることでも知られています。

2位はフィンランドのヘルシンキ。ヘルシンキの企業は、フィンランドの社会政策に従い、親になる方々に合計320日間の育児休暇、最大5週間の年次休暇、リモートワークの選択肢を含む柔軟な勤務体制を提供しています。

3位はスウェーデンのストックホルムでした。ストックホルムの正社員には最低25日の年次休暇が与えられます。柔軟な勤務形態が一般的で、半数近く(46%)の求人がハイブリッドワークやリモートワークの選択肢を提示しています。さらに、両親にそれぞれ240日の育児休暇が与えられます。

他にも最近では、新型コロナウイルス禍を受けたリモートワークの世界的な普及によって、2017年にフランスが改正労働法で定款の策定を義務付けた「つながらない権利(right to disconnect)」が話題になりました。
つながらない権利とは、勤務時間外や休日に仕事上のメールや電話への対応を拒否する権利のことです。例えばフランスの場合、従業員数50人以上の企業を対象に、業務時間外の「つながらない権利」に関する定款の策定を義務づけました。イタリアもこの権利を雇用契約に明記することを義務づける法律を制定し、英国でも野党・労働党がつながらない権利の法制化を目標とする政策を発表しています[2]。

また、特にドイツやオーストリアでは、職業教育や職業訓練が非常に充実しています。これにより、若者は早い段階から専門的な技術や知識を習得し、キャリアをスタートさせることができます。このような制度は、青少年の失業率を低く保つための戦略としても機能しています。
また、一般的には職種別採用です。専門性が重視されるので、職務内容と最終学歴や職歴と関係あるかどうかが採用において重視される傾向にあります。

総じて、ヨーロッパのキャリア形成は、労働者の権利の保護とワークライフバランスの追求に焦点を当てています。これは、人々の幸福と健康を重視するヨーロッパの文化や価値観に起因していると言えるでしょう。

アメリカ:よりよい環境を求めてキャリアチェンジ

アメリカの労働市場も、ヨーロッパと同様に基本的には職種別採用です。基本的には一括採用ではなく通年採用、ポストに空きが出たら募集する傾向が大きいです。競争が活発で、能力主義が根付いています。企業はパフォーマンスを重視し、従業員も上司からの評価を受動的に待つのではなく、定期的な評価とフィードバックの中で、自らの成果と貢献を明確にする傾向があります。例えば、プロジェクトの成功や売上の増加、新しいアイデアの提案とその実現など、具体的な業績を評価の際にアピールするのです。

また、雇用制度では、アメリカの多くの州で「at-will」雇用(随意雇用、直訳では「気の向くままに」)が主流となっています。これは、特定の契約期間がない限り、雇用者はほとんどの場合、事前の通知や理由なしに従業員を解雇することができ、逆に従業員も理由なしに辞職することができる制度です。

ただし、雇用機会均等法に基づき、差別的な理由(人種、性別、宗教、年齢、障害など)での解雇は違法です。これに違反すると、企業は法的な制裁を受ける可能性があります。

OECD平均よりも労働時間が長いアメリカ[3]ですが、彼らの働き方にも変化がみられているようです。米労働統計局のキャサリン・エイブラハム元局長がメリーランド大学のリア・レンデル氏とまとめた論文によれば、アメリカ人はコロナ禍前ほど長く働かなくなりました。2020年1月には、労働者は週平均37.5時間働いていたものの、2022年11月には36.9時間に減少したようです[4]。

ニューヨークに本社を置く世界的な金融メディア、ブルームバーグの記事で、スタンフォード大学のキャロライン・ホクスビー教授は「アメリカ人は昔から他の先進国より労働時間が長かった。コロナ禍でショックを受けた米国人は仕事に対してヨーロッパ的なアプローチを取るようになったのかもしれない」と指摘しています[5]。

平均勤続年数は4.1年と、日本(12.3年)やヨーロッパ(平均9.3年)と比べて短いのもアメリカの特徴です[6]。
また、2021年に入り経済が徐々に回復する中で「グレート・リシャッフル(大量転職時代)」という現象が浮上しています。これは、労働者たちが高給、充実した業務内容、柔軟な勤務体系などを求め、大量に職を移る動きを指します。

アメリカでは、労働者の離職に対する抵抗感が薄れてきており、LinkedInのエコノミック・グラフ・チームが行った最新の分析によれば、短期勤続率(STR)は、近年業界全体で増加傾向にあります。

特定の業界、例えば芸術や娯楽産業では、早期退職の割合が特に高まっているようです。具体的には、芸術・娯楽産業のSTRは、前年同月比で11.63%の上昇を示しており、これは労働者が前年よりも早く職を辞める傾向にあることを示唆しています[7]。

総じて、アメリカの労働市場は職種別採用と能力主義が特徴で、パフォーマンス重視の文化が根付いています。コロナ禍を背景に、労働時間の短縮や労働者の職場移動の動きが顕著になっており、特定の業界では人材の流動性が高い傾向が見られます。

日本:変化しつつある高度経済成長期の伝統的習慣

現代の日本の雇用制度の基礎は、多くの部分が高度経済成長期(1955年~1973年)につくられ、その名残りが色濃く残っているのが特徴です。

この時期、日本の経済は驚異的な速度で発展しました。多くの企業が市場を拡大し、大量の労働力を必要としたからです。このため、新卒の若者たちに対する安定した雇用の提供が、企業の戦略として取り入れられました。終身雇用制度はこうした背景から生まれました。

終身雇用の下で、従業員は一度入社するとその企業で長期的なキャリアを築くことが期待されました。従業員が会社に勤務する年数に応じて、昇進や給与アップが期待されるシステムである年功序列の考え方もこの時期に確立されています。

このような制度の下では、従業員と企業は互いに強い結束力を持っていました。企業は安定した労働力を確保し、従業員は生涯の安定した雇用を保障されるという形で、双方にメリットがあったのです[8]。

しかし、近年のグローバル化や技術革命の進行、少子高齢化などの社会的変動により、終身雇用や年功序列といった従来の雇用制度に疑問の声が上がってきました。 特に、若い世代の中には、多様なキャリアの選択肢やフレキシブルな働き方を望む声が高まっており、企業もこれに応える形で、年齢や入社年次にとらわれない役割等級制度など、新しい雇用形態や評価制度を導入し始めています。

変化はあるものの、現代の日本の雇用制度は高度成長期に形成された終身雇用や年功序列といった伝統的な制度がいまだに主軸となっているのが特徴と言えそうです。

日本の自律意識の低さは課題

こうした硬直した雇用制度は、社員の自律意識の成長を阻む要因になっているかもしれません。

リクルートワークス研究所が行った国際調査によれば、「キャリアは自分が決める」というキャリア自律の意識は、日本人は他国の人に比べて低いことが明らかになっています。アメリカ・中国・インドが7割前後なのに対し、日本は5割を下回りました[9]。

また、パーソル総合研究所が2022年に発表した「グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)」では、「働くことを通じた成長を重要だと考える人の割合(成長志向度)」や、「仕事を通じた成長を実感できている人の割合(成長実感度)」は、調査対象の国・地域の中で日本は最も少ない結果となりました[10]。

特に、「成長実感度」の低さが際立ちます。勤務先以外での学習・自己啓発は、日本は「特に何も行っていない」割合が52.6%で最も多く、今後、そのような学習・自己啓発に「自己投資する予定がない」割合も42.0%と最も多くなっています。

欧米では、自身のキャリアは自らが築き上げるものという考え方が強く、複数の企業や業界での経験を積むことが一般的です。こうしたキャリアの流動性の高さは、多様な経験やスキルの獲得を可能にしています。

こうした背景もあり、2022年10月に臨時国会で行われた岸田首相の所信表明演説では、成長分野で働くためのリスキリング(学び直し)の支援に5年間で1兆円を投入する方針も表明しました[11]。変化が激しく、求められるスキルが次々と変化する社会では、今まで以上に自発的に学習することが求められていくことになりそうです。

表2 社外の学習・自己啓発の活動状況の比較

人手不足を背景に激化する採用競争

日本のキャリア形成は、社会的変動やグローバル化の影響を受けて、大きく変わりつつあります。さらに、今後加速する少子高齢化社会において、人手不足は深刻な課題となっています。

この背景から、移民を含めた多様な人材の採用が急務となっており、企業は国際的な視点を持つことが求められています。ダイバーシティを意識した採用や、多様な背景を持つ従業員が活躍できる環境の整備が不可欠でしょう。

ヨーロッパでも人口減と人手不足が課題になっており、イギリスは2030年までに60万人の留学生を誘致するために350億ポンド(約6兆4400円)を投資することを目標としており、フランスは2027年までに50万人の留学生を誘致するためにビザ取得手続きの簡素化に取り組んでいるようです。

日本より少子化が深刻な韓国では将来を見据え「スタディ・コリア300Kプロジェクト」を開始しました。大学、企業、地方自治体が協力して、より多くの外国人留学生を誘致し、韓国でのキャリアパスを描く手助けをするものです。

韓国語の学習機会の提供拡大や、ハイテク産業で働く優秀な外国人労働者を先手を打って確保するため、政府は外国人留学生のための国家基金制度であるグローバル・コリア奨学金制度を拡大、外国人研究者を雇用する大学への財政支援を強化します[12]。

日本でも、新しい雇用形態や評価制度の導入に加え、リモートワークやフレックスタイム、そしてダイバーシティ&インクルージョンの推進など、多様な働き方を実現するための取り組みが増えてきています。これにより、従業員はキャリアの途中で新しいスキルを習得するだけでなく、異なる文化や背景を持つ人々と協力して働く機会も増えるはずです。

多様な人材の受け入れとその活躍の場を広げる方向へと舵を取っていくことが求められています。
他国との違いを積極的に学び、採用の習慣やその背景の違いを視野に入れた制度設計により、サステナブルな仕組みを構築していきましょう。


参考文献
[1]Forbes ADVISOR,2023年3月23日,”Worldwide Work-Life Balance Index 2023″
[2]日経Biz Gate,2022年5月25日,つながらない権利、世界各国が法制化 日本は動きなし
[3]OECD,2022年,労働時間
[4]The Brookings Institution,2023年3月17日,”Brookings Papers on Economic Activity, Spring 2023″,P1
[5]Bloomberg,2023年4月6日,FRB悩ます米国人の「ヨーロッパ化」、働き方改革でインフレ下がらず
[6]独立行政法人労働政策研究・研修機構,2023年3月,「データブック国際労働比較2023」P139
[7]LinkedIn News,2022年9月29日,Forget ‘quiet quitting’ — many workers are still outright quitting their jobs as quickly as possible
[8]三菱総合研究所,2015年10月26日,「日本的雇用慣行」の成立と定着
[9]リクルートワークス研究所、2018年12月6日、米国・中国・インドより「キャリア自律」が低い日本の行方
[10]パーソル総合研究所,2022年11月8日, 「グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)」
[11]NHK,2022年10月3日,岸田首相が所信表明 学び直し支援 5年間で1兆円投入
[12]The Korean Times,2023年8月16日,Korea aims to attract 300,000 foreign students by 2027

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