「採用活動における7つのアクション」全体図 採用計画からタレントプールの活用まで

2023.08.01
考え方

執筆:天野彩
作図:上石尊弥
リサーチ協力:秋山紘樹 / 市岡加奈子

図1 採用活動における7つのアクション

採用活動の全体の流れを把握した上で、採用成功のための戦略を練り、優先順位をつけながら日々のタスクを整理・実行されていますか。
本記事では、効果的・効率的な採用活動を行うためのガイドラインとなる「採用活動における7つのアクション」を解説します。

前半の基盤構築パートでは、採用活動を効果的に行うための入念な準備をします。後半の実行力向上パートでは、採用プロセスの中で試行錯誤を繰り返しながら日々アップデートしていきます。

採用活動の全体の流れの理解と、今の採用における課題の整理と問題点の解決策探しにぜひご活用ください。

特に「③採用ブランディング」と「④コンテンツ制作」の一貫性の重要性については「採用の羅針盤『ブランディング』と目線を合わせる『コンテンツ制作』の重要性」をご覧ください。

① 採用計画:求人票の作成とスケジューリング

図1-1 採用計画

新しく人材を採用するとき、会社の経営戦略や人員計画で決定された指針をもとに、採用計画を策定します。

具体的には、会社として将来達成したいことと、現状の業務の問題点を洗い出します。
そのギャップを埋めるための人材要件を整理し、いつまでにどんな人材を何人採用したいのか、具体的な採用スケジュールに落とし込みます。

必要に応じて現メンバーのスキル要素の分析も実施します。例えば現メンバーのスキルを一覧化するためにスキルマップを作成し、評価基準に応じてスキルレベルを数字で記入していくのも有効な手段です。現メンバーに不足しているスキルの要素を把握し、人材要件に盛り込みます。

同時に、求める人材がどれだけ市場にいるかを調査した上で、社内で議論と検討を重ね、現実的なペルソナを設定するために人材要件を精査する作業を進めます。
市場調査では、例えば採用メディアを利用し、暫定的に設定した検索条件を入力してどれくらいの人数がヒットするか確認したり、付き合いのあるエージェントに設定した人材要件に合致する人がどれくらいいそうか尋ねたりします。その結果を踏まえて募集ポジションの人材要件を最適化していきます。

このとき、求める人材像が転職市場の状況とかけ離れていないか、つまり求める人材は実際に転職市場に存在しているのかをしっかり確認します。
求める要件の数が多ければ多いほど、要件を全て満たす人材の母数は少なくなります。候補者が市場にほとんど存在しない場合、どれだけ採用活動をしても思うように人材を確保できません。

このように社内外の事情を整理した上で、転職市場へのアウトプットとして求人票を作成します。募集ポジションで担ってもらう役割や背景の背景、ポジションの魅力などを分析し、端的に言語化します。

求人票の内容を整理できたら、目標達成のためのプロセスを実現するためのスケジュールを立てます。

選考ステップごとに次のステップに進む候補者の人数の割合「歩留まり(ぶどまり)」はスケジューリングの目安になります。
例えばあるポジションで半年後までに3人採用したい場合、3人採用するために何人に書類選考に進んでもらう必要があり、さらにそのために何人にスカウトを送る必要があるかを歩留まりから逆算します。すると採用にかかる期間を概算できます。

現場の希望を達成するために現実的なスケジュールを組むのが難しい場合は、その都度人材要件や採用目標を見直します。

<チェックリスト>
・採用目標を達成するために、人材要件の言語化と最適化はできていますか?
・求める人材が実際に転職市場に存在していることを確認できましたか?
・現実的な採用スケジュールが立てられていますか?

② 採用体制:人員確保と脱属人化

図1-2 採用体制

採用計画を立てたら、採用目標を達成するために、本記事で解説している7つのアクションを適切に実行していけるような体制を構築します。

会社によって、採用の戦略を立て実行していく担当者が現場にいる場合も、人事部門にいる場合もあります。社内の誰が採用計画や人材の募集要件を練り、転職エージェントなどとコミュニケーションを取り、採用活動をいかに進めていくかを確認します。

採用のために十分な人数を社内で確保できておらず手が回らない場合は、エージェントとのコミュニケーション不足により候補者を推薦してもらいにくくなったり、購入した通数分のスカウトを候補者に送れなかったりして、採用にかけた時間と予算が無駄になってしまう場合があります。
必要に応じて部門間で連携を取り、必要なマンパワーを確保した状態で採用活動を進めることが肝要です。

また、社内で採用ノウハウを蓄積し、継続していくことも大切です。採用活動が担当者に属人化してしまい、引き継ぎが十分になされず、担当者が抜けたらゼロから採用活動全体を再設計しなくてはならないという事態は避けなくてはなりません。

どのように採用の戦略を立案し目標設定と計画策定に繋げるのか、どのように社内外の関係者とコミュニケーションを取りながら採用活動を進めるのか、採用ブランディングをどう考え、どうコンテンツに落とし込むのか、どのメディアやエージェントを使い、どのように採用活動を進めていくのか。

こうした7つのアクション全てに関するノウハウについて、暗黙知を形式化していく作業を日々地道に進めていきます。また、形式知となったノウハウを継続的に運用し、アップデートしていくことも大切です。

<チェックリスト>
・採用計画を達成するための適切な採用体制を構築できていますか(マンパワーは足りていますか)?
・採用ノウハウの蓄積、継続的な運用、アップデートはできていますか?

③ 採用ブランディング:採用活動における屋台骨

図1-3 採用ブランディング

採用ブランディングは、企業の魅力を伝えるために重要な取り組みです。
ここでは具体的に、候補者に自社が大切にしている価値観や魅力を伝え、ポジティブな印象を与えるための活動と定義します。

採用ブランディングは、「ターゲットの明確化」と「コンセプトの策定」で構成されます。
どんな候補者をターゲットとし、どのように認識されたいかを明確にしておくのです。

ターゲットの明確化では、自社の成長に必要な人材にターゲットを絞り込みます。このとき、自社製品やサービスの消費者と、今回のターゲットとなる採用活動における候補者の人物像が一致するとは限らないということに注意します。

コンセプトの策定では、ターゲットに対して自社のどのような魅力を伝えるかを明確にします。コンセプトは、採用ブランディングの基盤となる想いやテーマです。
ターゲットのニーズに思いを馳せ、コンセプトを組み立てます。

ターゲットとコンセプトは、チームメンバーで議論してブラッシュアップを重ねて決定していくことが重要です。

成功した採用ブランディングは、有望な候補者の採用のための重要な要素です。
具体的な施策として「④コンテンツ制作」が肉付けとして加わることで、候補者が自社で働いているイメージを具体的に思い描くことができるようになります。
採用ブランディングとは、具体的な採用施策を作る上での屋台骨なのです。

<チェックリスト>
・どんな候補者をターゲットとするか、明確にできていますか?
・ターゲットにどのような企業として認識されたいか、明文化できていますか?

④ コンテンツ制作:採用ブランディングとの一貫性が重要

図1-4 コンテンツ制作

採用ブランディングのコンセプトを、採用ポジションの独自性や働く上での魅力として明文化し、採用コンテンツを作成、発信します。

採用コンテンツとは、例えば、企業のビジョンやミッション、成長戦略、文化や働き方を掲載した採用ページや採用ピッチ資料、TwitterなどSNSでの発信、社員へのインタビュー記事や動画などです。

ここで重要なのが、ブランディングと個々のコンテンツに一貫性を持たせることです。
「誰に何を伝えるべきか」がそもそも明確になっていないと、思いつきで制作された採用コンテンツが乱立してしまい、全体の一貫性や統一感に欠ける印象を候補者に与えてしまいます。また、古いコンテンツを使いまわしており、アップデートが滞っていることが伝わってしまうことも悪印象を与えます。

会社のミッションと求める人材像が一致していなかったり、公式のウェブサイトに掲載されている情報が古かったり、そもそも情報発信が少なかったりすると、かえってネガティブなメッセージが候補者に伝わり、「この会社で働くのは不安だな」と思わせてしまいます。古い情報も含めて定期的に採用コンテンツ全体を整理、更新していくことが大切です。

<チェックリスト>
・採用ポジションの独自性・魅力は明文化できていますか?
・「誰に何を伝えるべきか」を明確にできていますか?
・コンテンツのアップデートはできていますか?

⑤ チャネルマネジメント:チャネル選びと情報伝達

図1-5 チャネルマネジメント

ここでいう採用チャネルとは、候補者にアプローチする経路のことです。

求人情報を企業の採用ページや求人サイトに掲載して候補者からの応募を待つ「公募」、人材エージェントに求人に合う人材を紹介してもらう「人材紹介」、候補者に企業が直接アプローチする「ダイレクトソーシング」、社員に知人や友人を紹介してもらう「リファラル」などがあります。

採用担当者はチャネルごとの特徴を把握した上で、戦略的に採用活動を進める必要があります。チャネルによって、取り扱う求人情報の業種、職種、雇用形態、年収レンジや、候補者の経歴、スキルレベルなどは異なります。チャネルごとの特徴を調べ、最適なチャネルを選び、うまく組み合わせて活用しましょう。

また、現場や人事の採用担当者、役員など社内の関係者に加えて、人材エージェントやRPO(採用代行サービス業者)など外部のステークホルダーと、採用に関する情報をしっかり共有しておくことも重要です。

例えば自社の直近の合格者・不合格者の傾向やポジションの魅力について、関係者の間で共通認識を持っておくことで、募集する人材についての解像度が上がり、社内で人材要件の整理ができたり、社外の協力者からいい人材の推薦が上がる可能性が高まったります。

適切なチャネルを選び、採用活動の質と活動量が担保されているか、随時分析し、プロセスを最適化していきましょう。

<チェックリスト>
・採用活動と候補者集団形成を進める上で適切なチャネルの選択ができていますか?
・自社の直近の合格者・不合格者の傾向などについて、社内外のステークホルダーと共通認識ができていますか?
・ステークホルダーとポジションの魅力についての共通認識を持てていますか?

⑥ 面談・面接:的確な見極めと候補者の意向醸成

図1-6 面談・面接

ここまで準備を整えたら、いよいよ本格的な選考プロセスに入ります。

「①採用計画」で設計した人材要件をもとに、各選考プロセスで何を選考基準にするかを明確化し、面談や面接の担当者によって結果がぶれないような仕組みをつくることが目標です。採用基準書の作成や面接官トレーニングは有効な手段です。

選考途中で候補者の離脱・内定辞退を防ぐためには、丁寧なフォロー、素早い返信に加え、面談や面接で話す内容も重要です。自社の説明や選考に必要な情報の聞き取りに時間いっぱい使ってしまうのではなく、候補者のニーズを聞き取り、質問に答える時間も十分に設けておく必要があります。
限られた時間で自社の魅力をしっかり伝えるために、入念に下準備をします。面談・面接での好感度が高ければ、候補者の志望度を上げてもらえるでしょう。

オファーの段階で他社に競り負けてしまうことを避けるために、候補者の転職軸と自社の特徴・魅力をしっかりすり合わせた上で、個々の候補者の興味を引くようなストーリーを作りオファー面談に臨むことが重要です。

<チェックリスト>
・選考基準が各フェーズによって言語化でき、選考担当者の中で共通認識ができていますか?
・候補者の好感度や志望度を上げられるような面談や面接ができていますか?

⑦ タレントプール:継続アプローチで中長期的な採用を

図1-7 タレントプール

タレントプールとは、自社に興味を持ってくれている人材を中長期的に確保するための仕組みです。人材を意味する「タレント」と蓄えを意味する「プール」を組み合わせた言葉です。

労働人口の減少により人材獲得競争が熾烈になっている昨今では、個々の企業が必要な時に必要な人材とコンタクトを取れるように準備しておくことが重要です。

タレントプールの設計にあたっては、まず目的とゴールを設定します。次に、どのような人材をプールとし、データベースに登録しておくかを決めます。さらに具体的にどのように、どのような段階で情報を取得し、採用活動に用いるのかを決めます。

タレントプールの蓄積は、エクセルシートなどに手動で入力しておく方法も、見込み顧客の管理などができるHubSpotやMarketoといったMA(マーケティングオートメーション)ツールを用いて、候補者の属性別にコンテンツを自動的に配信する方法もあります。

たとえば選考で「今は転職のタイミングではない」といって辞退されたり、選考の段階では採用要件に合うスキルがなかったが会社側の育成体制が整ったタイミングであれば採用可能性がある候補者に、お互いのタイミングが合った時に再度応募を検討してもらえる可能性があります。
継続的にメルマガを送ったり、SNSをフォローしてもらったりして連絡を取り合える状態にしておきましょう。

中長期的に候補者と関係を構築することで、候補者側の状況変化に合わせたアプローチを設計できます。候補者が転職を検討するタイミングを逃さずアプローチできるように、なるべく継続的に接点を持ち続けることが大切です。

<チェックリスト>
・自社に興味を持ってくれた人材と中長期的に関係構築を図れるシステムを構築できていますか?
・タレントプール構築に興味はあるがどう着手したら良いかわからない状態ではありませんか?

このように「採用活動における7つのアクション」を都度見直しながら、効率的で効果的な採用活動を進めていきましょう。

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