「未反応層」に複数回スカウト送信する「ナーチャリングスカウト」の可能性
執筆:天野彩
作図:上石尊弥
リサーチ協力:LINE株式会社 / 木下牧子
秋山紘樹 / 長峰源樹
同じ候補者にスカウトメールを再送するのは「手抜きだ」「無駄だ」と考えていませんか?スカウトを送った候補者から返信がなかったからといって、一度で諦めてしまっていてはもったいないかもしれません。
限られた候補者集団の中で一人でも多くの人に関心を持ってもらい、エントリーに繋げるための「ナーチャリングスカウト」という考え方をご紹介します。
スカウトは1通でやめてしまう企業が多い
2018/4/1〜2023/4/30の期間、ダイレクト採用支援などを手がける株式会社ダイレクトソーシング(以下、DS)がスカウト送信を支援した約41万人のうち、スカウトを1回送付しただけの候補者は全体の約87%、送付回数が2回までの候補者は全体の97%を占めます(図1参照)。
スカウトを複数回送ると候補者から「しつこい」と思われるため、スカウトは複数回送らないほうがよく、再送するにしても2通目までで止めるのがいいと考えている採用担当者が多いのです。
ただ実際は、スカウトを2回以上送った候補者からの返信率は5%前後で推移しており、複数回スカウトを送ったとしてもぐんと返信率が下がるわけではありません。
応募への意向を段階的に育成する「ナーチャリングスカウト」
実は、限られた人材を獲得するために複数回スカウトを送ることが有効な手段となる場合があります。
DSが過去にスカウト送信を支援した約57万通のデータ(2023年5月末時点、スカウトサービス開始以降の総累計)によると、平均のスカウト返信率は約1割です。すると、残りの約9割の候補者がスカウトに「未反応」の層ということになります。
未反応の理由として、例えば下記の要因が考えられます。それぞれ図3で示した採用のボトルネックの確認フローの①〜④に該当します。
・ スカウトに記載のある人材条件に合致しなかった(スカウトのターゲットではなかった)…①または②
・返信したくなるような内容ではなかった…③
・転職を検討するタイミングではなかった…④
このうち③④が要因となっている場合、継続的なアプローチができれば返信を得られる可能性があります。まだスカウトを送っていない「未接触」の候補者が枯渇していきそうな場合、新規参入者を待たざるをえない「未接触」層を探し続けるよりも、徐々に増えていく「未反応」層にアプローチを続けていくほうが効果がある場合があります。
ただ、闇雲にスカウトを送っていては返信がきづらいでしょう。スカウトを複数回送付するときに大事なのが「ナーチャリングスカウト」という考え方です。マーケティングの分野で、顧客を潜在顧客からリピーターへと段階的に育成していくことを意味する「ナーチャリング」という言葉が由来の造語です。
候補者の応募への意向を段階的に醸成するために興味を持ってもらえそうなコンテンツを盛り込み、文面を工夫してスカウトメールを送る施策を指します。
文面を練ったスカウトで継続的にアプローチした事例
LINE株式会社(以下、LINE)は、「ナーチャリングスカウト」の試みで返信率向上に成功しました。
LINEでは2020年秋から約2年半にわたり、候補者の経歴から興味を持ってもらえそうな分野を想定し、毎回内容を変えて複数回スカウトを送信しました。候補者の母数が少なく採用が難しかったポジションで、カジュアル面談に繋げる人数を確保したかったためです。
すでに自社のオウンドメディアや他社メディアに掲載済みの自社のインタビュー記事やイベントの告知など、候補者の経歴に合わせて興味を持たれそうなコンテンツを洗い出し、スカウトメールにリンクを貼って紹介しました。
このときに工夫したのは、「読んでもらえましたか」といったリマインドのような文体ではなく、コンテンツのリンクを開いてもらえるように毎度文面を練り直したことです。
例えばある候補者には、LINEアプリ誕生の背景に2011年の東日本大震災があり、大切な人との関係性を深め、絆を強くするコミュニケーション手段が必要だという思いから生まれたことを1回目のスカウトで紹介。人々の生活に溶け込むサービス開発のために「あなたの力を貸してほしい」とカジュアル面談に誘いました。
2回目以降は、業務の進め方を説明する記事の内容を抜粋して記載したうえで候補者に期待することを示したり、トークの送信取消機能導入時の議論と経緯をまとめた記事、出社と在宅勤務を組み合わせたハイブリッドな働き方を始めることを伝える広報ページなどのリンクと、その内容を詳しく説明したメッセージを送りました。
こうしたスカウトメッセージの内容は、候補者に応じて違うものにしました。
すると返信をくれた候補者のうち、1通目で返信があった候補者は全体の56%、2通目が18%、3〜10通目が26%でした。3回以上スカウトを送った場合に返信があった候補者の人数は全体の4分の1にものぼることがわかります。
なお、返信を獲得するまでに送ったスカウト通数の総計と、カジュアル面談への移行率や辞退率には明確な相関関係は見られませんでした。スカウトを複数回送っても面談に繋げられるケースはあるのです。
また「ナーチャリング」を行わなかった他社では、複数回スカウトを送ったときの送信人数あたりの返信数は6.3%だったのに対し、LINEでは21%と3倍以上の成果が出ました。
この事例からわかるように、スカウトを送った時期が候補者の転職検討タイミングと合わなかった場合など、数ヶ月ごとに継続的にアプローチしていると、候補者が転職を検討したときに初めて返信をくれる場合があります。候補者の「タイミング」も意識しながら魅力的なコンテンツで興味を引き寄せ、採用の成功に繋げましょう。