応募前の「歩留まり」把握の重要性 採用の「健康状態」を測るヒントに

2023.08.01
考え方

執筆:天野彩
作図:上石尊弥
リサーチ協力:秋山紘樹 / 長峰源樹
福井大貴 / 大出友里恵

選考ステップごとに、次のステップに進む候補者の人数の割合「歩留まり(ぶどまり)」を把握し、採用に活用していますか?

採用の「健康状態」を把握するためには、候補者のエントリー後だけでなく、エントリー前の歩留まり(「スカウト返信率」「面談実施率」「選考移行率」)も把握することが重要です。本記事では具体例を交えて説明します。

図1 採用ステップごとの「歩留まり」

採用の健康診断「採用の歩留まり」把握の重要性

書類選考から1次選考、2次選考から最終面接といったステップごとに候補者数が絞られていく割合を「採用の歩留まり」といいます。 応募経路やポジションごとに歩留まりを算出し、社内の類似ポジションや過去の実績と比べることで、どのステップが採用のボトルネックになっているかを把握し、効率の良い採用活動を進めるためのアクションを取りやすくなります。

採用活動の「健康診断」である歩留まりの計測を定期的に実施することで、採用における「健康状態」を知ることができるのです。歩留まりの目標値は会社の知名度や求める人材の要件などにより異なります。
図1では、ダイレクト採用支援などを手がける株式会社ダイレクトソーシング(以下、DS)がこれまで蓄積したデータをもとに設計した目標値の一例を示しています。

多数の企業の採用担当者が歩留まりの重要性を理解している一方で、「ポジションやステップごとの歩留まりを把握している」という担当者の割合はぐんと減るでしょう。

見落としがちですが、落とし穴になりやすいのが採用管理システム(ATS)への入力の徹底です。ATSは候補者ごとの進捗ステップを確認するために便利なツールですが、入力項目に不備があったり、そもそも担当者が入力を忘れてしまったりすることがあると効果は激減します。

規模が大きい会社ほど面接の担当者が増えるために管理が行き届かず、入力漏れが多くなる傾向にあります。小規模のスタートアップや中途採用の規模が小さい大企業など、ATSを導入していない企業では手作業で全ての候補者の情報を入力しなくてはなりません。

スカウト送信の段階から歩留まりを把握しよう

歩留まりというと候補者が書類を提出するエントリー後の数字を指すことが多いですが、エントリー前の段階の歩留まりを把握することも重要です。

例えばダイレクトメディアを通じて候補者に直接スカウトメールを送るダイレクト採用を取り入れている場合、まずは企業がスカウトを送信した候補者のうち返信があった「スカウト返信率」、そのうちカジュアル面談につながった「面談実施率」、さらにそのうち書類の提出(エントリー)につながった「選考移行率」を把握しましょう。
その結果、採用目標人数を採用するためにスカウトを何通送る必要があるのか逆算し、目安を知ることができます。

同じ条件の候補者にスカウトを送り続け、候補者の母集団が枯渇してしまうとスカウト返信率は下がりやすく、維持するだけでも難しいのが実情です。
選考の途中辞退など、離脱率が高いポイントで対策を打つことで、歩留まりを上げ、より効率の良い採用を実現することができるようになるのです。

返信率改善のためにスカウト文面をアップデート

そこで今回は、DSの採用の事例を紹介します。
DSでは採用に力を入れ始めた2021年春以降、まずは選考に進んでもらう候補者の数を増やすため、応募前の歩留まりの改善を目指しました。

採用担当者が候補者の現職の仕事内容を調べたり、他社のカジュアル面談を研究したりして、スカウトからカジュアル面談や選考に進みたいと思ってもらえるように様々な工夫を凝らしました。

具体的には、「働き方や顧客との関係性など、あなたの現職に満足できずにいる点をDSでは解消できる可能性がありますよ」とスカウトメールやカジュアル面談でアピールしたり、離脱を防ぐためにスカウトの返信スピードを上げたりしました。スカウトの文面は1週間ごとに見直し、返信率を上げるためにアップデートしました。

図2 スカウト文の変更例

その結果、2021年3月までの3ヶ月間でスカウト返信率は5.8%、カジュアル面談実施率は30.8%だったのに対し、その次の3ヶ月間ではそれぞれ7.1%、42.4%へとアップしました。この時期に返信をくれた候補者の中に、最終的に入社した人もいました。

このように、応募前の歩留まりを把握し、より多くの候補者に次のステップに進んでもらえるように工夫することで、最終的に採用の成功に繋がります。 採用の「健康状態」を定期的に測り、必要なアクションの仮説を立てて実行していくことで、採用をアップデートしていきましょう。

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