IVRy・SmartHR・LayerXが「エンジニア採用の定説」を疑った結果とは
2026年9月17日、採用市場研究所は株式会社IVRy、株式会社SmartHR、株式会社LayerXの3社をお迎えし、”エンジニア採用の定説を疑う”と題したイベントを開催しました。
色々な会社で行われている選考フロー、なんとなく正しいように思えるものの、誰かの意思によって選択されたものではないこと。本イベントでは、こうした考え方を定説と呼びました。
まず、3社の違いを見ていきましょう。規模も、フェーズも、採用体制も異なります。
図2 3社の面接回数
この違いを念頭に置いたうえで、自社の採用ではどうするのかを考えていただくイベントとなりました。
3社の話は重なる部分もあれば、正反対のやり方を行っていることもありました。しかし、違っていたのは手段であって、なぜそうするのかという思想の部分には共通点がありました。
今回の記事は、イベントで語られた内容を抜粋しながら、IVRy・SmartHR・LayerXが「エンジニア採用の定説」をどう扱い、どのような実践を行っているのかについてご紹介します。
面接回数はなぜ2回・3回・4回に分かれたのか
まず、自社の面接は何回かを会場に聞いてみました。結果は3回が最多で、2回は意外と少なく、4回もちらほら、という分布でした。
3社の答えは、きれいに割れています。
図2 3社の面接回数
ここでは、いちばん面接回数の多いLayerXを掘り下げます。
LayerXが選考に時間をかける理由は、見極めではなく相互理解にあった
そもそも今回のテーマは、この企画の打ち合わせで大石さんと「なんで面接2-3回のところが多いんでしょうね」という話になったところから生まれています。大石さん自身、入社当初は違和感を持っていたといいます。
図3 3社のなかで最も選考プロセスの長いLayerX
大石さん:前職の選考プロセスはコーディングテストと面接2回という設計だったので、LayerXに入社して、すごく時間をかけた選考フローだなと思いました。ただ、実際に運用してみて、当社側が採用の見極めのために時間を割いているだけではないなと感じました。大事にしているのは、トライアル入社を含めて、候補者の方との相互理解です。
トライアル入社では、1日かけて実際にLayerXのオフィスで一緒に働きます。課題はEMやハイヤリングマネージャーが設計し、過去に手がけた機能の改修や追加を題材にしています。
ーーなぜ面接だけでは足りないのでしょうか
大石さん:面接のシーンにおいて、1時間で自分のできること・やってきたことを、きれいなパッケージとして話すことは可能だと思います。誰もがきれいに話せてしまうからこそ、面接の場だけでは見えないものがあります。
一緒にケース問題を解けば、どんな仕事の進め方をする人かが見えてきます。それは企業にとっても、候補者にとっても有益な情報です。
ーー候補者によって選考プロセスを短縮することはありますか?
大石さん:候補者の要望などにあわせて期間をなるべく詰めていくことはありますが、ステップをスキップすることは基本的に行いません。質の高い意思決定をするために必要な情報を、お互いに揃えることを大切にしています。
回数を増やすか、面接官を増やすか、対話の密度を上げるか
3社の面接回数は異なりますが、限られた時間のなかで、判断に必要な情報量をどう確保するかという背景は共通していました。
LayerXは相互理解と納得感のために工程そのものを増やし、IVRyは1人の判断に寄せないために1回あたりの面接官を増やし、SmartHRは評価のばらつきを抑えるために質問を構造化して対話の密度を上げています。
同じ目的に対して、自社のリソースとフェーズで解ける方法を選んだ結果が、2回・3回・4回という差になっていたのです。
候補者体験とは、優しく接待することではない
候補者体験という言葉は使い勝手がよく、施策をやっているのかいないのかよくわからないケースがあるのではないか。ファシリテーターである秋山のその問題意識から、2つ目のテーマに入りました。
3社の答えは、表面的には大きく違って見えました。
図4 3社がこだわる候補者体験
ここでは、候補者体験について「全接点で一貫したCX」と「お互いに納得できる対話の質」を重視し、特に後者について「エンジニア採用ポリシー」に文書化しているSmartHRを掘り下げます。
図5 SmartHRが候補者体験として重視するポイント
SmartHRのエンジニア採用ポリシーでは「面接体験を重視するあまり優しく接待する場にしない」としている
SmartHRは、従来幅広かった採用対象をシニアエンジニアにフォーカスしたことを機に、従来あった採用ポリシーを見直したといいます。
そこではシニアエンジニアを採用するにあたって「なぜやるのか、どんな人をどんな観点で見極め採用すべきか」とともに「候補者体験(面接をどんな場として候補者を迎えるか)」についても言及しています。
奈良さん:シニアなエンジニアであればあるほど、踏み込んだ議論にならないと不安というフィードバックもあります。
シニアエンジニアの方の場合は特に、ご自身が成長できるかということ以上に、何を還元できるのか、活躍できそうかについても、大きな検討のポイントになると思っています。必要な論点にはしっかり踏み込みながら候補者様のことを理解するための問いかけをし、その問いかけから候補者様が「何を求められているか?」や「次にSmartHRを選ぶべきか」が伝わるよう、現在向き合う課題や質問の背景などをお伝えしながら会話することを重視しています。
ーーポリシーを作っても一人ひとりの面接官に浸透させるのは難しくありませんか?
奈良さん:ドキュメントとして共有を行うだけでは浸透しないですね。
今回のポリシー刷新にあたっては、全エンジニアが集まる定例MTGで同期的に共有を行いました。1回伝達しただけでは浸透しないと思い、VPoEが毎週、パート毎に小出しにして啓蒙したり、各事業部のハイヤリングマネージャーから、より具体的な形に落として面接官に直接伝えてもらっています。
面接官を半数に絞り、面接の評価項目は等級制度と接続した
ここでIVRyの井口さんから、質問が出ました。深掘りをする側にも技術力が必要で、シニアエンジニアにフォーカスしている以上、面接官の力量が問われるのではないか、という問いです。
奈良さん:前提、すごくうまくできています、ということはなくて、苦労はしています。
シニアエンジニアにフォーカスしたタイミングで、採用したい等級以上の面接官をアサインするルールを明文化したり、ランダムアサインからある程度固定化させるなどして面接官も絞られました。
採用ボリュームが多かった時期は一次面接官が数十名いましたが、現在は半数以下です。
とはいえ人数は多いため、判断がブレないよう質問項目や評価軸については、活躍している人材像や等級要件からブレイクダウンして構造化面接として設計しました。
加えて、選考体験の改善のため、面接後には候補者様へアンケートを依頼し、その結果いただいたフィードバックがあれば面接官にも共有しています。
候補者が判断するために必要な情報を渡す
候補者体験として3社が共通して大切にしていたのは、候補者が判断するために必要な情報を意識して渡すという点です。候補者体験=丁寧な対応のこと、という定義を採用していた会社は、1社もありませんでした。
不採用や辞退で、関係を終わらせない
3つ目のテーマでも、会場に挙手を求めました。不採用や辞退になった方と、その後も接点を持つ仕組みがある会社はどれくらいあるか。結果は約3分の1で、想像していたより多い、という反応が会場にありました。
3社ともに、接点を終わりにしないと答えました。ただし、アプローチ方法はきれいに分かれました。
図6 不採用や辞退で関係は終わる?
ここでは、会社のValueと紐づいているIVRyを掘り下げます。
IVRyがポジションを変えられるのは、組織構造がそうなっているから
井口さん:背景にあるのは、IVRyが大切にしている3つのValueの一つ、Grab and Grit(機会をつかんでやり遂げよう)です。仮にご辞退になってしまった場合も、あなたのことは事業やIVRyにとって重要だと思っているんだ、というのを本当に伝え切ったのか。それをハイヤリングオーナーもCEOもすごく大事にしているので、ポジションを変えて再提案することもあります。候補者体験を阻害するレベルではやりませんが、自分たちが本気で採用したいと思った相手に対しては想いを伝え切る、ということは意識しています。
ーーポジションを変えるという選択肢は、簡単なように見えて実際には組織全体でどこでどんな人材を求めているのかを把握しておく必要がありますよね。IVRyがそれをできている理由はなぜでしょうか?
井口さん:私たちはエンジニア主導で採用を進めています。これは、事業のロードマップと、いまの実力をエンジニア自身が一番わかっているからです。エンジニアリングで開いているポジションは14〜15個で、ハイヤリングオーナーは4名程度です。ハイヤリングオーナーは基本的に組織のマネージャー層で、互いに密に情報を共有しているので、この方は他の組織のポジションに合いそうだ、という話がボトムアップで上がってきます。ハイヤリングオーナーには、年収の提案も含めて権限を渡しています。
ーー引き際の見極めはどうされていますか?候補者全員に対して追いかけるのでしょうか?
井口さん:いえ、全員ではありません。伸ばしたい技術領域が私たちとまったく違うなど、辞退の理由が明確な場合は追いかけません。踏み込むのは、IVRyの強みが伝わっていない可能性があるときです。うまくいく例も、その人のキャリアを一緒に考えられたときに生まれているという印象です。
一度生まれた縁を資産に変える
3社の手段はまったく違うように見えますが、一度生まれた縁を資産に変えるという点では共通していました。SmartHRの導入するタレントプールにはシステムと運用ルールが、LayerXの継続的な関係性の構築は業界内での存在感が、IVRyの想いを伝え切る執念には権限の委譲が、それぞれ前提として必要です。どれが正しいかではなく、自社のどのリソースで解くかの選択でした。
疑うべきは、定説ではなく自社の手段かもしれない
3つの定説を疑ってみた結果、割れたのは面接回数だけでした。その面接回数も、理由まで降りていくと割れていません。3社とも、相互理解と納得感に必要な情報量をどう確保するかを考えていて、解き方だけが違ったのです。
疑うべきは、定説そのものではなく、それを実現している自社の手段のほうかもしれないということです。
LayerXが4回の選考を維持できるのは、序盤の面談で設計の理由を説明し切っているからです。IVRyがポジションを変えられるのは、ハイヤリングオーナーが密に情報を共有しているからです。SmartHRが2回で判断できるのは、質問項目を等級要件からブレイクダウンしているからです。手段は、その会社の構造とセットでしか機能しません。
一方で、目的のほうは移植できます。相互理解に必要な情報量を確保すること、候補者の意思決定を助けること、一度生まれた縁を資産に変えること。この3つについては、規模もフェーズも違う3社が、そろって同じことを言っていました。
だとすれば、問うべきはこうなります。自社のリソース、フェーズ、組織構造において、その目的をどう設計するか。
秋山は冒頭の自己紹介で、大切にしていることとしてこう話していました。
採用ってやっぱりチーム戦じゃないですか。経営者とか現場とか採用担当によるチーム戦かなと思っていて、立場が違えば見ている景色の解像度も異なってくる。議論の前提が揃っているかどうかが、採用の成否を分けるのかなと思っています
自社の選考フローがなぜこうなっているのかをあらためて問い直す。そのきっかけにこの記事がなれば幸いです。
今回は、会場とオンライン配信を合わせて170名の方にお申し込みをいただきました。ご登壇いただいた井口さん、奈良さん、大石さん、そしてご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。
協力:株式会社IVRy、株式会社SmartHR、株式会社LayerX
執筆:木下牧子
作図:秋山紘樹