新卒採用に起きている変化。大学名と学生を取り巻く環境の相関性【イベントレポート】
採用戦略を立てる際、私たちは自社の強みや競合の動向には敏感になります。
しかし、「学生を取り巻く環境」の現状については、意外なほどアップデートされていないのが実情ではないでしょうか。
「上位校の学生なら基礎学力は高いはず」
「地頭の良さは学歴でおおよそ担保できる」
もちろん、学歴が全てだと盲信しているわけではないでしょう。しかし、エントリー時のスクリーニングや、最終選考で複数の候補者が並んだ場面など、迷ったときは、やはり高学歴のほうが安心だと、無意識に学歴を評価の拠り所にしているケースは少なくありません。
問題は、その学歴である程度の能力は担保できるはずという過去の経験則に基づく感覚と、現在の市場の実態との間に、大きなズレが生じていることです。その結果、優秀なはずの高学歴層を採用しているのに、現場でのミスマッチや育成課題が一向に解決しないという事態が起きているのです。
採用市場研究所が主催し、ゲストにベネッセi-キャリアの小田桐氏を迎えて開催されたイベント「探れ、知識の最前線#03」で共有されたデータは、日本の新卒採用市場が構造的な転換点を迎えていることを示唆しています。
本稿では、経営者や現場のハイヤリングマネジャーが認識すべき3つの市場変化と、それに対応するためのアプローチについて解説します。
大学入試の多様化と「評価指標」としての偏差値(変化①)
かつて、難関大学への入学は一般入試という厳しい関門を通過した証であり、それは基礎学力や、目標に向かって継続的に努力する力の証明としても機能していました。企業が学歴をひとつの目安としてきた背景には、こうした相関関係への信頼がありました。
しかし現在、その前提は大きく変わりつつあります。
特筆すべきは、現在の私立大学入学者の約6割が推薦・総合型選抜での入学であるという事実です。少子化を背景に大学入試の形態は多様化しており、かつてのように「一般入試での得点力」だけが入学の主要ルートではなくなっています。
図1 高校大学入試の変化
出典:探れ、知識の最前線#03〜「学生の見極め方」から採用活動をアップデートする,p31
これは決して学生の質が下がったことを意味しません。むしろ、多様な才能や背景を持つ学生が増えたことを意味します。しかし、企業側の視点で見れば、「同じ大学・学部であっても、保有している基礎能力や学習経験のプロセスは一人ひとり全く異なる」という状況が生まれています。
つまり、履歴書の大学名だけを見て一律に基礎能力を推測することは、もはや困難になっているのです。従来の学歴フィルターに過度に依存することは、多様な個性を持つ優秀な人材を見逃すリスクにつながりかねません。
情報環境の変化と「最適化」する学生たち(変化②)
学生の行動原理も、社会環境の変化に伴い適応・進化しています。
現代の学生は、生まれた時から膨大な情報に囲まれています。彼らがタイパと言われるタイムパフォーマンスを重視したり、失敗を避けて効率的に物事を進めようとしたりするのは、情報過多の社会を生き抜くための極めて合理的な適応戦略です。
しかし、ビジネスの現場では、正解のない課題に対して試行錯誤する泥臭さや、遠回りをするプロセスが求められる場面も多々あります。効率よく正解にたどり着くことばかりを学んできた学生たちと、泥臭い過程を評価するビジネスの現場。両者の間には、お互いに悪気がないまま、すれ違いが起きやすくなっているのです。
さらに、生成AIの普及がこの変化を加速させています。エントリーシートや課題において、AIを活用して論理的で整ったアウトプットを作成することは、今の学生にとっては当たり前のリテラシーとなりつつあります。
その結果、提出された成果物を見るだけでは、それが本人の深い思考によるものなのか、ツールの活用によるものなのかを判別することが難しくなりました。綺麗なアウトプットが、必ずしも思考の深さを証明するものではなくなっている現状を、私たちは理解する必要があります。
図2 履修選択の考え方の変化 ① 楽単志向
出典:探れ、知識の最前線#03〜「学生の見極め方」から採用活動をアップデートする,p57
面接担当者の「眼力」だけに頼る限界(変化③)
「面接で話せば、人物像はわかる」
経験豊富な経営者やマネジャーほど、対話を通じた見極めに自信をお持ちかもしれません。しかし、前述した環境変化は、面接という手法の難易度を格段に上げています。
客観的な指標としての偏差値の意味合いが変化し、事前の書類情報も高度化している現在、面接担当者は複雑な情報を処理しなければなりません。限られた面接時間の中で、基礎能力、思考のプロセス、ストレス耐性、カルチャーマッチのすべてを正確に判断することは、物理的にも認知的にも限界に近づいています。
対人スキルが高く、コミュニケーションが円滑な候補者であっても、実務における思考特性までは見抜けないケースがあるのはこのためです。人間の目だけに依存した選考は、構造的にリスクが高まっていると言えるでしょう。
図3 学生の見極め方を考える
出典:探れ、知識の最前線#03〜「学生の見極め方」から採用活動をアップデートする,p63
面接ですべてを見極めようとしない
では、こうした市場の変化に対して、企業は具体的にどう対策を打てばよいのでしょうか。
結論から言えば、重要なのは面接官個人のスキルアップではなく、選考プロセスそのものを構造から見直すことです。
多くの企業が陥りがちなのが、面接ですべてを見極めようとすることです。しかし、どれだけ熟練した面接担当者であっても、短時間で能力、人柄、志向性のすべてを判定し、さらに魅力付けまで行うことは限りなく不可能に近いです。
書籍『図解 採用入門』でも指摘した通り、面接には、第一印象にひきずられる確証バイアスや自分と似た人を好む類似性バイアスといった心理的な歪みがどうしても生じます。だからこそ、見えにくい思考力などの評価を、人の主観だけに委ねるのは得策ではありません。
図4 認知バイアスの種類
出典:坪谷邦生、秋山紘樹『図解 採用入門』
「役割分担」で選考の精度を上げる
今回のイベントでベネッセi-キャリアの小田桐氏から提示された解決策は、ツールと人の「得意領域による役割分担」というシンプルなものでした。
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適性検査の役割
- 思考力や基礎能力のベースラインを、客観的な数値で判定する。バイアスのない客観データを用いることで、面接官の負担を減らし、一定の基準を担保する
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面接担当者の役割
- テストで確認した能力が、実際の対話や経験の中でどう活かされているかを深掘りする。さらに、AIでは測れないカルチャーへの共感を確認し、自社の魅力を伝えて候補者の意向を高めることに注力
図5 活躍人材を見極めるため選考プロセスを改革
出典:探れ、知識の最前線#03〜「学生の見極め方」から採用活動をアップデートする,p64
客観データと主観のベストミックスへ
採用とは、企業が一方的に学生を評価する場ではなく、企業と学生が互いの「重なり」を確認し合う場です。
見極めがどんどん難しくなっている今の時代に、面接担当者の目利きだけで全てを判断しようとするのは無理があります。テストなどの客観データで基礎能力の土台をしっかりと測り、面接では、その能力の活かされ方や、カルチャーへの共感を確かめ合う。この両輪をうまく回すことこそが、企業と学生の双方がここで働きたい、この人と働きたいと思える、良い採用の条件になるはずです。
変化を理解し、基準をアップデートする
採用市場は過去の延長線上にはなく、大学名や学生時代の経験が持つ意味合いも変化しています。
しかし、これは学生が変わってしまった、と嘆くべきことではありません。社会背景が変われば、そこで育つ人材の特性が変わるのは必然です。
経営者や現場マネージャーの皆様におかれては、従来の成功体験に基づく採用基準が今の時代に即しているか、一度立ち止まって検討してみてはいかがでしょうか。
市場の変化を正しく理解し、私たちの採用の「OS」をアップデートすること。それが、組織の未来を作る第一歩となるはずです。
協力:株式会社ベネッセi-キャリア
執筆:秋山紘樹
作図:髙橋麻実
編集:木下牧子