自由と丸投げの境界線。エンジニア学生が「裁量権のある環境」に求めているもの

2026.03.30
インタビュー
デポンテス・マコト氏 インタビュー

圧倒的な成長、裁量権のある環境、自由な社風。 多くの企業が、自社の魅力を伝えようと工夫を凝らしています。

しかし、ふと立ち止まって考えてみたいのです。 企業が良かれと思って伝えているそのメッセージは、本当に意図した通りに届いているのでしょうか?

特に、企業が魅力として語る自由や裁量といった言葉。これらは、受け手である学生の目には、時に丸投げや整備されていない不安な環境として映ってしまっているのかもしれません。

取材を通じて見えてきたのは、企業側が投げかけるイメージを冷静に分析するある学生のリアルな視点でした。

エンジニアとして都知事杯JPHacksなどで数々の受賞歴を持つ学生、デポンテス・マコトさん(名古屋大学情報学部4年)に、その背景にある考えを伺いました。

なぜ、魅力的なはずの自由を避けるのか

―― 本日はよろしくお願いします。デポンテスさんは就職活動を経験されたのち、大学院への進学を選択されたとのことですが、就職活動をされるなかで特に重視していたポイントはありましたか?

デポンテス: そうですね。いくつかあったのですが、特に重視していたのは、その会社にルールが整っているかどうか、という点です。

―― ルール、ですか。一般的に、エンジニアを目指す学生さんは、細かいルールに縛られない自由な環境を好むイメージがあったので、少し意外に感じます。

デポンテス: もちろん、事業を前進させるスピード感や熱量は好きですし、否定しません。 ただ、私が求めているのは、何かを制限して縛り付けるためのルールではないんです。

私にとってのルールとは、合意形成のプロセスや評価の基準といった、仕事を進めるためのインフラのことです。これがない環境は、自由というよりリスクが大きいと感じてしまいます。

―― リスクとは、具体的にどのような事態を想定されているのでしょうか?

デポンテス: これは実体験なんですが、明確な合意形成のルールがない組織だと、鶴の一声ですべてがひっくり返ってしまうことがあるんです。

以前、エンジニアとして必死に作った機能やコードが、トップの一言で何の評価もされずに消えてしまったことがありました。 もちろん、ビジネスの世界では方針転換は付き物です。でも、プロセス自体が評価されない悲しさは、働いている側としてすごく大きくて。

積み上げた努力が、個人の感情や理不尽な力によってゼロにされてしまう。その徒労感を避け、より働き甲斐を感じながら仕事に向き合うための基盤として、ルールが必要だと感じています。

開発に集中したいからこそ、整った環境を選ぶ

―― なるほど。ただ、それだけ組織運営への知見をお持ちであれば、あえてルールのない環境に飛び込んで、ご自身でルールを作っていくという選択肢もあったのではないでしょうか?

デポンテス: それも考えました。でも、いろいろ経験して行き着いた結論は、私はエンジニアやPMとして、プロダクトを作ることに100%集中したいということでした。

―― 開発に専念したいという思いについて、もう少し詳しく聞かせてください。

デポンテス: 組織のルールが整っていないと、どうしても社内政治、あるいは理不尽な決定への対応に脳のリソースを割かなければなりません。

私は、そのエネルギーを良いものを作ることに使いたいんです。ルールというインフラが整っている会社を選ぶのは、本来注力すべきことに集中して、純粋にパフォーマンスを発揮するための環境を買う感覚に近いかもしれません。

―― 非常にストレートで合理的ですね。楽をしたいわけではなく、成果を出すために整った環境を求めていると。

デポンテス: はい。インフラが整っているからこそ、その上で安心してアクセルを踏めるし、自由に挑戦できると思っています。

優秀な学生ほど、組織の力関係を冷静に見ている

―― では、面接などの場で、この会社には安心して働けるルールやインフラがある、と判断するために、具体的に注目しているポイントはありますか?

デポンテス: 特に見ているのは、ビジネスサイドとエンジニアサイドの関係性です。立場や役割が違う人たちが集まる組織で、どちらか一方の声だけが大きくなっていないか。対等に話せる仕組みがあるかを見ています。

―― 具体的にはどのような質問をされるのですか?

デポンテス: 社員の方に、意見が割れた時はどう決めるんですか?職種間での定例会議などはありますか?と聞くようにしています。

明確なルールがないと、どうしても声の大きい人の主観や、ビジネスサイドの意向だけで物事が決まってしまいがちです。 例えば、技術的な実現可能性や必要な工数が考慮されないまま、これを作ってと仕様が降りてくる。エンジニアなら一度は経験するような理不尽な納期や仕様変更も、自分がインターンで経験してきた限りでは、対等に議論する場が設計されていないことに起因しているケースが多かった。

そういう歪みがないか、合意形成のプロセスが設計されているかは、かなりシビアに見ています。

―― 最後に、デポンテスさんにとっての良い働き方とはどのようなものでしょうか?

デポンテス: やはり、組織運営の歪みに振り回されず、チームでプロダクトの価値を高めることに全力を注げることですね。そして、その結果生まれたものが、ちゃんと会社の資産として積み上がっていくことです。

たとえプロジェクトが失敗したとしても、なぜ失敗したのか、プロセスはどうだったのかが、組織の知見として残り、正当に評価される。決して「なかったこと(ゼロ)」にはならない。

そうやって自分の仕事が確実に形になっていく手応えを感じられる環境こそが、一番働きやすい環境だと思っています。

協力:デポンテス・マコト
執筆:秋山紘樹
作図:髙橋麻実
編集:木下牧子

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