面接を “感覚の勝負” から “再現性のある仕組み” へ──構造化面接という科学的アプローチ

2025.07.14
考え方

執筆:秋山紘樹
協力:雨宮百子
作図:髙橋麻実

面接とは、限られた時間内で「候補者」と「企業の求めるもの」の重なりを見極めることです。つまり、企業が候補者を見極めるのと同時に、候補者も企業を見極める双方向のプロセスと言えます。この双方向のプロセスにおいて、企業は候補者を正しく見極めることと、優秀な候補者を動機付けして入社に導くこと、この2つに同時に取り組む必要があります。どちらも大切ですが、今回は前者の見極めについて考えていきたいと思います。

「見極めの難しさ」については現場でも様々な声が聞かれます。
「人を見極めるのは得意」「面接なんて簡単」——。こうした声がある一方で、「毎回判断に迷う」「正しく見極めるのは本当に難しい」と悩む声もよく聞かれます。このように意見が大きく分かれること自体が、人を見極めるという行為の難しさを物語っていると言えるでしょう。

では、なぜ人を見極めることはここまで難しいのでしょうか。
その観点から面接の難しさの正体を探ってみると、2つのハードルが見えてきました。それは、「仕組み上のハードル」と「心理的なハードル」です。

仕組み上のハードル

面接は「わずかな時間で、まだ一緒に働いたことのない相手を正しく見極める」という、とても難易度の高い仕事です。
たとえば中途採用で即戦力エンジニアを3名連続でオンライン面接する場面を想像してください。1人あたり60分、面接担当者はあなたを含め2名いるとします。その場合、次のような3つの難しさが浮き彫りになります。

① 質問のばらつき
候補者Aには「失敗経験」を深掘りし、候補者Bにはその質問を聞かなかった場合、Aの弱点だけが目立つ形になります。逆に候補者Cにばかり強みを聞けば、Cが優秀に見えて当然です。
また、候補者Aにはアルゴリズムの知識を深掘りし、候補者Bには開発文化の話に時間を費やし、候補者Cにはコードレビューの姿勢ばかりを聞く。同じポジションでも、候補者によって質問がばらつくと、得られる情報がまったく違うため「どちらがより適任か」を公平に比べられません。
質問の内容や順番が統一されていないと、そもそも比較検討に必要な情報が揃わないのです。

② 評価のばらつき
評価軸が共有されていても、その解釈が抽象的であれば問題が起こります。「コミュニケーション能力が高い」という評価軸を共有していても、面接担当者Dは「論理的に説明できる」ことを、面接担当者Eは「相手の気持ちを汲み取れる」ことを、面接担当者Fは「議論をまとめる力」を重視するかもしれません。
さらに、評価軸そのものが共有されていなければ、より深刻な問題となります。面接担当者Dは「設計書の書き方が丁寧=高評価」と見なす一方、面接担当者Eは「即興でコードを書ける=高評価」と考え、面接担当者Fは「チームでの調整力=高評価」を重視するかもしれません。評価軸が共有されていなければ、最終スコアは「誰が重視したか」の力学で決まってしまいます。
いずれの場合も、候補者自身の実力を正しく反映しない評価となってしまいます。

③ 時間の制約が重い
しかし60分という限られた枠では、表面的なやり取りで終わる可能性が高いです。質問を深掘りする前にタイムアップとなり、候補者の本質的な部分を十分に把握できないまま判断せざるを得ないケースが頻発します。

こうして「質問のばらつき」「評価のばらつき」「時間の制約」が重なると、3人の候補者を横並びで評価するのはほぼ不可能です。結果として「Aさんは即戦力に見えたから合格、Bさんは印象が薄いから不合格」といった印象に依存した判断に流れやすくなります。

これらの仕組み上の制約だけでも面接を困難にしますが、実は面接の難しさにはもう一段階あります。それが人間の認知に根ざした「バイアス」の問題です。

図1 面接を困難にする二重のハードル

心理的ハードル

面接の難しさは、仕組み上の制約だけではありません。もう一つの大きなハードルが、私たち人間の認知に根ざした「心理的な落とし穴」です。

バイアスとは「心のクセ」のことです。私たちは大量の情報を一瞬で処理するために近道(思考のショートカット)を使いますが、これが判断をゆがめる原因になります。面接でも無意識に働くため、本人が気づかないまま評価を変えてしまうのが難しいところです。面接で起こりやすいバイアスを3つ紹介しましょう。

① ハロー効果
あるひとつの長所が他の面も良く見せてしまう現象です。たとえば「プレゼンが上手だから資料作りも得意に違いない」と無意識に判断してしまいます。実際には全く別のスキルであるにもかかわらず、印象的な一面がすべてを覆い隠してしまうのです。

② 確証バイアス
「この人は営業向きだ」など最初の仮説を裏づける発言や態度だけを拾い、反証材料を無視する現象です。面接担当者が早い段階で抱いた印象に合致する情報ばかりに注目するため、質問が浅くなり、候補者の多面性を見落としがちになります。

③ 類似性バイアス
面接担当者と似た学歴や趣味を持つ候補者を高評価しやすい傾向です。同じ大学出身というだけで「気が合いそう」と感じて点数が甘くなることがあります。共通点があると親近感が湧き、それが能力評価にまで影響してしまうのです。

これらのバイアスはいずれも「感じがいい」という印象が面接全体を引っ張り、客観的な評価を覆い隠してしまいます。
このように、面接には二重のハードルがあります。
「質問・評価・時間の制約により、そもそも比較に必要なデータが揃わない」という仕組み上のハードルと、「集めた情報の解釈が認知バイアスによって歪められる」という心理的なハードルです。前者では情報収集の段階ですでに偏りが生じ、後者でその偏った情報をさらに主観的に解釈してしまう、という構造です。そのため結局、「なんとなく良さそうだから合格」という運や勘まかせの判断へ流れやすくなるのです。

この二重のハードルがある限り、面接が”当て物”になってしまうのは自然な帰結です。では、何か手立てはあるのでしょうか。

面接を構造化させることの効果

従来の面接では、面接担当者によって質問内容が異なったり、個人の経験や直感に基づいて評価が行われたりするため、候補者の能力を公平かつ正確に測定することが困難でした。このような主観的な判断のばらつきが、先述した二重のハードルを生み出す根本的な原因となっています。

構造化面接(structured interview)とは、こうした問題を解決するために、職務要件に沿って質問と評価基準を事前に決定し、全候補者に同じ順序で質問し、行動指標付きの採点表でスコアを付ける面接手法です。
対極にあるのは非構造化面接(unstructured interview)で、質問内容や評価基準を面接担当者の判断に任せる面接スタイルです。非構造化面接は面接担当者の勘や主観に頼る部分が大きく、業績の予測には不向きです。
多数の学術研究により、構造化面接は非構造化面接と比べて職務パフォーマンスの予測精度が大幅に向上することが実証されています[1]

ではなぜ構造化面接が先ほどの仕組み上のハードル、心理的ハードルという、2つのハードルを解決できるのでしょうか。

それは、構造化面接が質問項目を統一することで情報収集の偏りを防ぎ、評価基準の明文化で面接担当者による判断のブレをなくすことができるためです。また、事前に決められた質問と評価基準により、ハロー効果や確証バイアスといった認知バイアスを大幅に減らせます。

こうした構造化面接の効果を実証している企業の代表例がGoogleです。Googleでは全候補者に同じ質問を行い、統一された評価尺度で回答を採点し、事前に定めた一貫した採用要件に基づいて合否を判断しています[2]。このアプローチにより、評価のばらつきが面接担当者の主観的な判断ではなく、候補者自身の実際のパフォーマンスに基づくものとなり、採用プロセスの公平性が大幅に向上しました。
Googleの内部調査においても、構造化面接は候補者・面接担当者の双方により良い体験をもたらし、より公正な評価手法であることが実証されています。

現実的な構造化の設計

理論的には理想的な構造化面接ですが、現実的な導入という観点では多くの企業にとってハードルが高いのが現状です。
質問から評価基準まで完全に設計するには専門知識が必要で、実行するにも面接担当者向けに十分なトレーニングを積まなければなりません。加えて、ポジション数が増加すると、その分だけ設計時間と運用コストが膨らんでしまいます。

そこでヒントとなるのが、構造化と非構造化を白黒の二極として捉えるのではなく、その間にさまざまな段階があると理解することです。つまり、企業は自社のリソースや構造化への習熟度に合わせて、段階的に構造化のレベルを高めていくことが現実的なアプローチといえるでしょう。たとえば「導入時の質問や確認すべき観点は固定するが、深掘りの方法は面接担当者に任せる」といった中間的なアプローチから始めることも可能です。

実際に、面接の構造化度合いを四段階に分類して、米国の研究者が整理した研究もあります(Huffcutt & Arthur, 1994)[3]。以下では、同研究の4段階モデルを実務で使いやすいように要約したレベル表を示します。

図2 面接の構造化度合いを四段階に分類

レベル1は面接官が自由に質問・評価する非構造化、レベル2は基本は自由に質問・評価を行うが一部基準を設定する部分的構造化、レベル3は基本は質問・評価の基準を統一するが一部自由に質問・評価することを認める高構造化、レベル4は質問も評価も完全に固定する完全構造化です。

Huffcutt & Arthur(1994)による注目すべき研究結果では、レベル3以上の構造化でないと入社後のパフォーマンスをほとんど予測できないことが示されています。つまり、レベル1から2の面接では、採用面接が能力を見極める手段として機能していない可能性が高いのです。

では、レベル3以上の完全な構造化が実施困難な場合はどうすればよいのでしょうか。Wiesner & Cronshaw(1988)の研究[4]によると、「複数面接担当者の配置」と「面接後のすり合わせの場の設置」という二つの手法を組み合わせることで、構造化のレベルが不十分でも評価精度を大幅に向上できることが明らかになっています。具体的には、下記の2つが担保されるからです。

① 複数面接担当者による評価の客観性向上
複数名の面接担当者を配置することで、個人の経験や価値観による偏りを防ぎ、異なる専門性を持つ面接担当者が多角的に候補者を評価できます。これにより、一人の面接担当者が持つ偏見や先入観を他の面接担当者の客観的な視点で補完し、候補者をより正確に見極めることが可能になります。

② 面接後のすり合わせによる精度向上
面接後に面接担当者同士で評価をすり合わせることで、個別評価の共有、評価相違点の検証、相互フィードバックを通じて、より高い選考精度を確保できます。単に評価を平均化するのではなく、評価の違いが生まれた理由を検証し、面接担当者同士が見落とした側面を補完し合うことで、より適切な判断を導き出すことができます。

このように、完全な構造化が困難でも、段階的なアプローチと補完的な手法を組み合わせることで、面接を”感覚の勝負”から”再現性のある仕組み”へと変えていくことが可能です。

参考文献
[1] Schmidt, F. L., & Hunter, J. E. 1998年, The validity and utility of selection methods in personnel psychology: Practical and theoretical implications of 85 years of research findings, Psychological Bulletin, 124(2), 262–274.
[2] Google. 構造化面接を活用する. Re:Work. https://rework.withgoogle.com/jp/guides/hiring-use-structured-interviewing/ (参照日:2025年7月11日).
[3] Huffcutt, A. I., & Arthur, W. (1994). Hunter and Hunter (1984) revisited: Interview validity for entry-level jobs. Journal of Applied Psychology, 79(2), 184–190.
[4] Wiesner, W. H., & Cronshaw, S. F. 1988年, A meta-analytic investigation of the impact of interview format and degree of structure on the validity of the employment interview, Journal of Occupational Psychology, 61(4), 275–290.

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