SOMPOホールディングスのプロダクト内製組織が乗り越えた「エンジニア組織の成長痛」

2025.11.26
インタビュー

取材協力:SOMPOホールディングス
取材:秋山紘樹/木下牧子
執筆/撮影:木下牧子

日本の多くの企業では、システム開発を外部の会社に任せるのが一般的です。だからこそ、自社の中にエンジニアを抱えてプロダクト開発を行う組織には、創業期のスタートアップとは異なる、独自の難しさがあります。

彼らが向き合うのは、ゼロからのプロダクトではなく、すでに何千億・何兆円というお金が動き、顧客に価値を届け続けている巨大な「事業」そのものです。

2025年7月に公開した記事では、プロダクト開発企業を念頭に、エンジニア組織の成長戦略を追いました。

今回は、内製化組織の発足当初5名だったチームから、現在では84名体制へと成長したSOMPOホールディングスの内製開発チームを率いるマネージャーである阪 倫嘉さんに、リアルな軌跡をお伺いしました。

組織の成長を分けた3つのフェーズ

── まずは阪さんについて教えてください。

私がSOMPOホールディングスのエンジニアチームに入ったのは2019年の4月です。当時の内製開発チームは前年である2018年に立ち上がったばかりで、私が入社した頃は社員のエンジニアは5名ほどの体制でした。2025年現在では、84名規模に組織が拡大しています。

現在の私自身の役割としては、ポッドと呼ばれる複数のプロジェクトを横断し、システム連携や開発効率を見るアーキテクトとしての役割と、16名ほどのメンバーのマネジメントを担っています。

── どのようにエンジニア組織が成長してきたのでしょうか。

前回公開された記事を拝見すると、プロダクト開発企業の成長プロセスとして組織が拡大するほどに役割が細分化していく様子が描かれていましたが、私たちは事業会社の内製開発チームということもあり、少し違う道を辿っています。

私たちの成長は、「立ち上がり初期」「事業方針転換」「専門性の追求」という大きく3つのフェーズに分けられます。

フェーズ 1:立ち上がり初期のアイデンティティ・クライシス

内製開発チーム発足当初のミッションは、グループ全体に資する研究開発として、PoCやHTMLモックによる需要性などの検証が中心でした。ホールディングスとしての制約があり、事業を直接行うことができなかったのです。

まずは「知見を内部に貯めるために内製化するんだ」という目的が先行し、開発組織としての事業計画やロードマップはなく、「人が採用できてから担うプロジェクトや役割が決まる」という経緯を辿ったのです。そのため、立ち上げ初期には独自の難しさがありました。

── 立ち上げ当初は、「人を動かし、組織を形作る」という状態だったのですね。採用面ではどのような「壁」があったのでしょうか?

まず、組織立ち上げ当初は技術的な評価基準を持つ人材が少なく、応募者のケイパビリティを正確に判断する技術面接が難しく、スキルは履歴書や面接のなかから非エンジニアの社員が判断する状況でした。

そのため、デジタル領域の開発にマッチするモダンな開発を実践するに足りる人材かどうかの見極めも困難で、ミスマッチが発生することもありました。

また、SOMPOは経常収益が5兆円を超える大企業です。社内の業務推進において求められるビジネスコンピテンシー(推進力や作成文書のクオリティ)のレベルも非常に高いのです。エンジニアにも技術力だけでなく、そうしたビジネスの水準に合わせることが求められ、初期の離職につながったケースもありました。

これは組織の立ち上げフェーズと本人のキャリア志向とのミスマッチでした。

フェーズ2:新規事業への挑戦と「事業方針転換」

── 最初の成長痛を乗り越えた後、組織はどのように規模を拡大していったのでしょうか?

大きな転機となったのは、2021年にSOMPO Light Vortexというデジタル事業を行う会社が立ち上がったことです。私たち、SOMPOグループの内製開発チームも兼務の形で、アプリの本格開発を開始しました。

このフェーズでは、「ヘルスケアや介護といった今後の発展ドメインでの新規事業」が採用の大きなフックになりました。内製開発を志向するエンジニアが多く集まり、組織規模が拡大、採用活動も本格化し、ダイレクトスカウトや外部媒体も活用し始めました。

── 順調な拡大に見えますが、事業会社ならではの「大きな方針転換」があったと伺っています。

はい、その後、グループ全体の方針として2025年4月1日付けで「SOMPO P&C(損害保険)」および「SOMPOウェルビーイング」の2つのビジネス領域に再編しました。これにより、私たちのチームも、新規事業から損保ジャパンのコア業務へとシフトし、S O M P Oホールディングスのデジタル部門と損保ジャパンのデジタル部門の一体運営が始まりました。

新規事業を求めて入社したメンバーにとっては、この事業方針の転換が大きな課題となりました。損保ジャパンの業務は、グループ内で最も「高い品質やコンプライアンス」が求められており、要求される仕事のレベルも高くなります。

── その方針転換で、離職を選ぶメンバーもいたのでしょうか?

ええ。離職を選ぶのは本人のキャリア志向として尊重しましたが、マネジメントとしては、メンバーのモチベーションを維持するために手を打ちました。

例えば、PoC案件と、中長期的な開発案件を分けてアサインするなど、多様な可能性を残す形で組織の調整を行ったのが、この時期の私の重要な役割でした。

フェーズ 3:開発の焦点は顧客体験(CX)+従業員体験(EX)へ

── 現在はどのような開発に取り組んでいますか?

現在は損保ジャパンのSoE領域を担い、顧客接点に関わる領域で、UI/UXの追求や、発展が著しい生成AIなどの技術を活用した機能の深掘りに取り組んでいます。

同時に「デジタル疲れ」という内向きな課題とも戦っています。デジタル部門のPoCで効果が見込めると判断されたシステムを個別に導入した結果、現場では「毎朝7つのシステムにログインが必要」「複数のシステム間の重複作業が多くなった」といったオペレーション上の疲弊が生まれていました。

私たちは、外向きのプロダクトだけでなく、IT部門と協働し、基幹システムとのデータ連携や認証基盤への統合などを進めることで、従業員のオペレーション体験を改善する「守りのDX」も重要なミッションとして担っています。

── 組織が84名まで成長した今、マネジメント面での新たな成長痛はありますか?

組織が大きくなったことで、マネジメントの複雑化という課題に直面しています。権限移譲やレポートラインの最適化など、適時適切な調整が常に求められる状況です。

個人的にはこの課題を乗り越え、やりたい施策や、やったほうが良い案件についてのリソース不足の議論をなくすため、エンジニア100名体制へ組織を拡大するのが目標です。

── 100名体制を見据えて、どのような人材戦略を考えていますか?

これまでは「スキルをベースに幅広い領域に対応できる人材」を採用してきましたが、今後は事業や業務のドメインにより興味・関心を持つ人材を採用していきたいと考えています。例えば保険というドメインは、商品作り、営業、保険金支払いなど、複数の専門性で成り立っています。これらのドメイン知識を持ってエンジニアリングできるチーム化を一部のプロジェクトで進めています。

今後のエンジニアのキャリアにとって、技術力だけではなく「ドメイン知識」を伸ばすということは、エンジニア本人の市場価値を伸ばすうえで重要だと考えています。そのため「技術力+ドメイン知識」を併せ持つ人材の育成に力を入れていく予定です。

大企業の内製化がもたらすキャリア価値

── 最後に、 大手企業のなかで内製化を進めることには、どのような挑戦や意義があると感じますか?

大手企業で内製化を進めることの難しさは、単に技術を導入するだけでなく、長年培われた事業構造や文化そのものを理解し、事業とともに変化・成長していく点にあります。

スタートアップのようにゼロから市場や事業を作ることと対比すると、すでに何千億円・何兆円規模の事業に深く入り込みながら、そこに新しいテクノロジーを融合させていく。そのプロセスは非常にチャレンジングですが、同時に大きな意義があります。

たとえば私たちは、保険という複雑なドメインを深く理解したうえで、業務に最適な設計を考える力を磨いています。これは、エンジニアとして単純に技術力だけを磨いていくことでは得られない経験です。

また、会社としてDeveloper Experience(DX)への投資にも力を入れており、高スペックPCや生成AIを活用した開発環境を整備することで、効率的かつ創造的な開発を可能にしています。

さらに、IT部門とデジタル部門が協調し、コア事業のSoE領域を長期的に内製開発できる体制を持っていることも特徴です。こうした環境の中で、「技術力×ドメイン知識」を深めながら、事業そのものを進化させていく。それが私たちの挑戦であり、この取り組みの最も大きな意義だと感じています。

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